能登半島地震 米作り、酪農…地域外避難で働き手不足 規模縮小も視野
人がいなければ「面積縮小」
「人が戻らなければ経営規模を維持できない」。石川県の能登半島地震の被災地で、農家からそんな声が相次ぐ。本紙「農家の特報班」が半島先端の奥能登地域に入り、現状を探ると、一定規模での農作業に欠かせない働き手が深刻な住宅被害によって、地域外に2次避難するなどして仕事を離れ、人材確保が難航している実態が見えてきた。 【写真】限られた人数で牛の世話を続ける 輪島市の北部、町野町で水稲45ヘクタールを管理する農業生産法人粟蔵水稲は、田植えや稲刈りなどを手伝う期間雇用社員3人のうち、1人は市外に避難。1人は地震後の後片付けで負傷した。2人がいつ戻れるかは見通せないという。 ひび割れが生じた農地も多いが、法人代表の宇羅恒雄さん(79)は「できる限り米を作りたい」と話す。 崩れたあぜを補強する応急処置や苗などをそろえることと並んで、働き手の確保が急務となっている。宇羅さんは、3人いなければ「苗や設備がそろっても、面積を縮小せざるを得ない」と懸念する。
断水で「仕事は増えている」のに…
町野町の稲作農家、川原伸章さん(46)は、正社員1人とパート、アルバイト4人が1月末で退職した。市外での避難中、「別の仕事も考えている」と話す従業員に配慮し、川原さんから退職を促したという。「無理に働いてもらうことはできない」と判断した。 水稲33ヘクタールを栽培する川原さんにとって、各種作業を担当していた5人は欠かせない人材だった。農地の被害状況はまだ分かっていないが「栽培できる所があっても、人手のめどが立たなければ、作付けできるか分からない」と打ち明ける。 珠洲市で約130頭の酪農・和牛繁殖を営む松田徹郎さん(35)は、従業員5人のうち2人が退職。1人が県外に避難中で出勤できない状態だ。現在は松田さんを含む3人体制で、人数規模は地震前の半分。「このままの状況が続けば頭数を維持できなくなるかもしれない」と吐露する。 地震による断水で、人力で水を運ばなければならない牛舎もある。「人手が足りないのに仕事は増えている」と松田さん。2月から短期の働き手を1人確保したが「まだ足りない。人手が欲しい」と訴える。
日本農業新聞