これは「人類の絶滅」を示唆していないだろうか…リョコウバトの「いびつな繁栄」と「無慈悲な絶滅」が教えること
先住民族の社会の崩壊がリョコウバトを繁栄させた
しかし、約500年前にヨーロッパ人がアメリカ大陸にやってくると、状況は変わった。ヨーロッパ人が持ち込んだ感染症やアメリカ先住民に対する虐殺と奴隷化が、アメリカ先住民の社会を崩壊させ、人口を激減させた。 その結果、アメリカ先住民とリョコウバトのバランスが崩れて、リョコウバトが大発生したのではないだろうか。もし、そうだとすれば、19世紀にリョコウバトが50億羽もいたことは、異常な状態だった可能性がある。 かつて、アメリカのイエローストーン国立公園で、オオカミを駆除したためにシカが大発生して、森林が大打撃を受けたことがあった。 これは生態系のバランスが崩れた例として有名だが、19世紀の北アメリカにおけるリョコウバトの大発生も、イエローストーン国立公園におけるシカの大発生のようなものだったのかもしれない。
ヒトの質量は、野生の哺乳類全体の質量の約9倍
もしもアメリカ先住民が激減したために、19世紀の北アメリカでリョコウバトが大発生したのだとすれば、そのあおりを食って多くの野生の鳥類が絶滅した可能性が高い。北アメリカの自然が保持している、鳥類を養うための資源は、有限だからだ。 そして、ある種が大発生している生態系は、一般には不安定で、その状態が長期間にわたって続く可能性は低い。さまざまな種が絶滅の危機に瀕するだけでなく、大発生している種自体も不安定で、個体数が激減する危機に晒されている可能性がある。もちろん、それは北アメリカに限らない。地球全体で考えても、生物を養うための資源は有限なのである。 生物体の質量を炭素で見積もった研究(*)によると、私たちヒトの質量は、野生の哺乳類全体の質量の9倍近くに達しているという。これだけ多ければ、他の種を絶滅に追いやることはもちろん、私たちヒト自体も、このレベルを長期的に維持していくことは難しいだろう。 もしそうであれば、私たちにはどんな未来が待っているのだろうか。学会の一般公演を聴きながら、私はそんなことを考えていた。 (*) Bar-On, Y. M. et al.(2018)The biomass distribution on earth. Proceedings of the national academy of Sciences of the United States of America, 115, 6506-6511.
更科 功(分子古生物学者)