【社説】台湾頼政権発足 緊張緩和へ中台は対話を
台湾海峡の平和と安定は、東アジア地域全体の利益である。台湾の新政権には、中国との緊張を高めることのないよう慎重な対応を求めたい。 台湾の新しい総統に民主進歩党(民進党)の頼清徳主席(64)が就任した。 焦点の中国との関係について、頼氏は就任式で「傲慢(ごうまん)にも卑屈にもならず現状を維持する」と述べた。中国との統一も独立も求めない蔡英文前政権の路線を引き継ぐ方針は明確である。 頼氏はかねて独立志向が強く、行政院長(首相に相当)の頃、自らを「台湾独立工作者」と称したことがある。こうした過去の言動から、台湾統一を悲願とする中国は頼氏を「独立派」と見なし、敵視している。 頼氏が対中方針で現状維持を表明したのは、台湾の民意に沿った結果だろう。世論調査では現状維持を支持する国民が7割を占める。中台の緊張を抑えようとする頼氏の穏当な姿勢を評価したい。 対中融和路線の野党国民党の政権を望んでいた中国は、頼氏が勝利した1月の総統選以降、台湾への威嚇的行動を強めている。 中国軍機が事実上の停戦ラインである中台の中間線を越え、台湾空域に侵入する事案などが相次ぐ。 頼氏は就任演説で中国に対し、武力や言論による威嚇をやめ、共に台湾海峡の平和と安定に尽力するよう求めた。強い警戒感を示しつつも「台湾を合法的な政府」と認め、対話と交流を促すメッセージを送った。 中国は、中台を不可分の領土とする「一つの中国」の原則を受け入れない民進党政権に反発し、2016年の蔡政権発足時から政治レベルの対話を拒んでいる。 中国が見誤ってはならないのは、台湾との対話に応じず威圧を強めれば、台湾の民意はますます中国から離反するという現実だ。 20年の総統選で蔡氏が圧勝して再選を果たしたのも、頼氏の勝利で民進党が異例の3期連続で政権を担うことになったのも、中国に対する台湾の人たちの警戒心や拒否感の表れとみていい。 中国が台湾との関係改善を願うのであれば、威圧行為を直ちに中止し、対話再開へ歩み寄るべきだ。 日本や米国など関係国も、中台の緊張緩和に向けた動きを後押ししたい。 日本は台湾との国交がないものの、多様な交流の歴史がある。近年では台湾の半導体受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県進出もあり、重要物資のサプライチェーン(供給網)としての重要性が高まっている。 日台ともに地震や風水害が多発するため、防災や被災地復興での協力も増えそうだ。 知日派の頼氏は日本との関係を重視しており、九州を訪問した経験もある。地域レベルでも新たな連携を構築していきたい。
西日本新聞