「クマはどっちに行ったんだ」「じゃあこっちへ入る」 連続襲撃事故発生も…“忠告”聞かず山菜採りに入山しようとする人たち
加害グマは一頭か、あるいは複数か
それから3日後の5月29日、袴田が襲われたのと同じ田代平の山林で、50代の息子とふたりでタケノコを採るために入山した78歳の女性が、しゃがんでいたところを背後からクマが近づいてきて、臀部を噛まれるという事故が起きた。 女性はとっさにクマの頭部を蹴って逃げ、息子が即席の棒を手にして応戦。近くに停めてあった車の中に逃げ込んで事なきを得た。それでもクマはしばらく車のそばにつきまとっていたという。 そしてその翌日には、前日の現場近くで袴田と顔見知りの行方不明の男性が遺体となって発見された。やはり遺体にはクマによる食害が認められた。 さらに6月10日、2日ほど前に山菜採りで入山したとみられる74歳の女性の遺体が、前日の現場近くで見つかった。この遺体にもクマによる食害が認められ、同日午後2時ごろ、現場付近で発見されたクマが地元の猟友会によって駆除された。 クマは体長130センチほどの雌の成獣で、解剖の結果、胃の中から人間のものと見られる肉片が採取された。ただし、それが女性の遺体と一致するかどうかまではわからなかった。 雌グマが駆除されたことによって、秋田県鹿角市におけるクマによる一連の人身事故は終決したものと思われた。このクマの頭部や鼻には、複数の白い傷が認められた。袴田が遭遇したクマの顔にも、ナイキのマークのような白い傷があったという。だが、駆除された雌グマの写真を確認した袴田は、「傷の数も多いし、顔形も毛の色も違っている。私が襲われたクマではないと思う」と述べている。 また、6月30日には、十和田大湯大清水にて両親と3人でワラビ採りをしていた54歳の男性が、2頭の子グマを連れた雌グマに襲われて負傷するという事故も発生した。この子連れグマは、いまだに駆除されていない。 人間とクマとの共存を目的として活動する日本クマネットワークは、事故後に現地調査を行ない、その結果を報告書にまとめた。これによると、「駆除された雌グマが確実に関与したと考えられる事故は、6月10日に発見された74歳女性の事例だけで、この雌グマとは別に大型の個体が事故に関与していた可能性も否定できない」としている。以下はその報告書からの引用である。 〈これらのことから、攻撃、食害共に複数のクマが関与している可能性は否定できない。同様に、射殺されたメスがすべての攻撃と食害に関与したという仮説も否定できない。捕食を目的にした襲撃が複数のクマによるものか、1頭の個体によるものかを明らかにするには、事故直後の現場やご遺体から体毛などの加害グマの遺伝情報を含んだサンプルの採取が必要である。しかし、そのようなサンプルは得られていない〉 (完)
羽根田 治