【#佐藤優のシン世界地図探索㊼】シン東京地図図鑑<3>「縦の贈与」の系譜
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT OpenSourceINTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * 世界が劇的に動き続けるなか、いまの日本とその首都・東京をとらえるための素晴らしい教科書がある。 ひとつめが雑誌「東京カレンダー」の公式サイトにて連載されていた『東京男子図鑑』と『東京女子図鑑』。いずれも連続ドラマ化され、今ではネットでも視聴可能である。 そしてもうひとつは2022年に発売され、今もベストセラーとなっている小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(著:麻布競馬場 集英社刊)だ。 シン世界を探索すべく、足元の"シン東京"を読み解くこの短期集中連載。第1回は『東京男子図鑑』を、第2回は『東京女子図鑑』をテーマにしたが、第3回目に新たにとりあげるのは『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』。ストーリーのネタバレにはご注意いただきつつ、この教科書を読みこんで2024年のシン東京を紐解いてみよう。 ――第3回目で新たに論じたいのは『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(以下、『東京タワー』)であります。 佐藤 最近、読んだ本や小説の中で一番良かった作品ですね。 ――はい、本当に良かったです。 佐藤 本当に面白いです。 ――この著者の麻布競馬場先生は、どこから情報を仕入れているんですかね? 佐藤 自分の周りがそういう人たちなんでしょうね。多分、ベンチャー、コンサルとかそういった周辺です。日常的に『東カレデート』(『東京カレンダー』が運営する審査型婚活アプリ)の世界なんでしょうね。 ――そのゾーンの中にいる男女を選んで一気に書き上げたと言う感じでしょうか? 佐藤 ある程度、自分のことでもあるかもしれないですけどね。 ――私小説......すごいです。 佐藤 本に書かれている『吾輩はココちゃんである』。あれはやはり、現実的にモデルがいないと書けませんよ。あの飼い主は友達がいない。猫のココちゃんだけ。 ――猫通の佐藤さんが言うならば、絶対、飼い猫はいそうです。 佐藤 麻布競馬場さんが猫を飼っているかどうか、私には判断がつきません。だけど、ココちゃんを飼っている人は幸せになれないと思います。今、こういうのが勝ち組の若者では主流になっているのでしょう。そうならないように、ちょっと古いタイプですけど、教養主義みたいなのが必要なんですよね。面白いことの対象を変えていかないと。 ――この『東京タワー』の「カウンタータワー」のような対抗思想がないとツラいです。