<古畑任三郎>将棋の“封じ手”が決め手に…合理的な犯人が詰んでしまった第5話
三谷幸喜脚本の「古畑任三郎」シリーズは、田村正和演じる主人公・古畑任三郎が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの難解なトリックを卓越した推理力で解いていく、ミステリードラマの言わずと知れた金字塔。FOD・TVerでは「#ドラ活 浸れ、超自分的ドラマ生活。」を開催中で、第1シリーズの「警部補・古畑任三郎」第1~3話は7月6日(土)まで無料公開されている。2015年に亡くなった歌舞伎俳優の坂東三津五郎が、坂東八十助の時代に殺人犯の棋士を演じた第5話を紹介する。(以下、ネタバレが含まれます) 【写真】「古畑任三郎 第3シリーズ」(左から)石井正則、田村正和、西村まさ彦 ■合理的な手段を好む棋士VS古畑 第5話「汚れた王将」は、将棋のタイトル戦挑戦者・米沢八段(坂東八十助)が、第4局・1日目の対局が終わった夜に、立会人の大石(小林昭二)を殺して、浴室でシャワー中に事故死したように擬装する回。 タイトル戦の第1日は米沢の“封じ手”で終わった。だが、米沢は用紙に次の指し手を書き込まず、白紙のままで封じる。それに気付いた大石は夜、米沢の部屋でその真意をただす。そして、すべてを明らかにする、と席を立つ大石。米沢はその頭部を、そばにあった灰皿で殴りつけた。 今回は、部下の今泉(西村まさ彦)とともに、たまたまタイトル戦の会場となった旅館に泊まり合わせた古畑が、米沢の擬装を見破っていく。“封じ手”に隠されたトリック、逆転の敗着となった“飛車”に秘められたナゾ。鋭い観察力に裏打ちされた古畑の推理が冴える。 ■“封じ手”とは? 古畑の行く先々では、難事件が度々起こるわけだが、古畑と今泉がドタバタ走り回り事件の真相を追っていくリズム感を楽しむ回もあれば、割と静かに淡々とじっくり犯人を追い込んでいく回もある。今回は後者といえよう。 この事件では将棋の世界の“封じ手”を知っていると、謎解きの面白さが増す。劇中でも説明があるが、“封じ手”とは、将棋の対局が2日にわたって行われる長期戦になった際、翌日の最初の手をあらかじめ封書をとじた状態で置いておくことである。一晩考える時間があるとフェアではなくなるからだ。 どうしても勝利が欲しかった米沢が白紙で書いたのを大石に見られてしまい、カッとなって殺害したという悲劇。それほどまでに米沢がこの勝負に人生をかけていたことが分かるが殺人を犯してしまったら元も子もない。翌日に古畑が米沢に自白させるまでは対局時間同様に、待ちの時間が長く、ややじれったい捜査となった。 ■ボタンのずれたパジャマ論や、おいしい納豆の食べ方など雑学が散りばめられた回 古畑が冒頭で語るセリフには犯人の特徴や、その回の犯罪ヒントにつながる小話が盛り込まれる。今回は「パジャマのボタンをとめてから、全部ずれていたと気付くことがよくあります。必ず下からとめてください。まず、ずれることはありません」と、思わず“へぇ~”と言ってしまいそうな雑学を語った。これは「合理的に生きるっていうのはつまり、そういうことです」と、米沢の性格が“合理的”なものを求める人物であることを表している。 朝食の際、レストランで同席した古畑の納豆を見て、米沢は「しょうゆをかける前に混ぜると粘り気が出ておいしい」と“合理的”な食べ方を伝授するシーンがあった。将棋でも何手先まで読んで“合理的”な勝ち方を望んでいたのだろう。しかし、その性格があだとなり、古畑に犯罪を見抜かれてしまった。米沢のタイトル戦と、棋士人生が同時に詰んだ瞬間が描かれるラストとなっている。