『海猿』原作者、自身の映像化トラブルの経験交え芦原妃名子さん思いやる「普通の人が傷つくように傷つき、悩んだ」
『海猿』や『ブラックジャックによろしく』などの作品で知られる漫画家の佐藤秀峰氏が2日、自身のnoteを更新。日本テレビ系で昨年10月クールに放送された連続ドラマ『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんを追悼するとともに、『海猿』映像化でフジテレビと“絶縁”に至った経緯を改めて明かした。 【写真】原作者が苦言も…映画『海猿』出演者集合ショット 佐藤氏は2012年にフジテレビとの絶縁をツイッター(現X)で宣言。アポ無しの取材を受けたことや、映画『海猿』の関連書籍を無断で出版されたことが原因だった。 佐藤氏はnoteに「死ぬほど嫌でした」と題して投稿。「日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが亡くなられました。とても悲しいです」と心境を吐露。「漫画を原作とした映像化のトラブルということで、僕の名前を思い出す人も多かったようです」とし、自身とフジテレビの絶縁報道の記事の一部を掲載した。そして「ここ数日、当時の出来事がフラッシュバックしています。どうして漫画の映像化でトラブルが頻発するのでしょうか。他の漫画家のことは分からないので、自分の経験をお話しします」とし自身の作品の映像化に至った経緯を説明した。 「人気作の場合、映像化の企画は同時にいくつもやってきます」とし、「『ブラックジャックによろしく』は連載開始から2年経たずにテレビドラマ化されました。『海猿』もその少し後に映画化されました。すでに『ブラックジャックによろしく』のドラマが話題になっており、小さな制作会社からテレビ局まで様々なところから企画書が届いたそうです。詳しい話は聞かされず、ある日映画化が決まっていました」と知らないところで話が進んでいたという。 「決まったと思ったら僕が口を挟める余地はありませんでした。漫画家は通常、出版社との間に著作権管理委託契約というものを締結しています。出版社は作品の運用を独占的に委託されているという論理で動いていました。契約書には都度都度、漫画家に報告し許諾を取ることが書かれていました。が、それは守られませんでした」と指摘。「すでに企画が進んでいることを理由に、映像化の契約書に判を押すことを要求されました。嫌だったけど、『映像化は名誉なこと』という固定観念がありました」と当時の心境を明かした。原作使用料は「確か200万円弱」だったという。 「試写会に呼ばれたかどうか記憶が定かでありません。映像関係者には一人も会いませんでした。脚本?見たことがありませんでした」と意外な事実も明らかに。「『ブラックジャックによろしく』を週刊連載中で忙しかったこともあります。好きなようにされていました。作品が自分の手から奪われていく感覚がありました。『漫画と映像は全くの別物である』と考えました。そうしないと心が壊れてしまいます」と思いを吐露した。 映画はDVD化されてから観たといい「クソ映画でした。僕が漫画で描きたかったこととはまったく違いました」とバッサリ。「しかし、当時はそうした感想を漏らすことはしませんでした。たくさんの人が関わって作品を盛り上げている時に、原作者が水を指すのは良くないのかなと。自分を殺しました」と振り返り、「言えることは、出版社、テレビ局とも漫画家に何も言わせないほうが都合が良いということです。出版社とテレビ局は『映像化で一儲けしたい』という点で利害が一致していました」とした。 また『海猿』のテレビドラマ放映が終わり、映画第2弾が公開になった頃に『海猿』の“原作者”が現れ始めたという。「『海猿』の原作者は僕なので、どういうことか分からないかもしれません。とにかく海猿の原作者を名乗る人物が現れ、『映画次回作の脚本はオレが書く』と言い出したのです。漫画を描いたことがない人には、漫画家の苦労は想像できません」とし、「取材に協力したり、語ったエピソードが漫画にちょっとでも登場すると自分が原作者だと思い込んでしまうようです。そんな感じで『海猿』の原作者を名乗る人物は何人かいました。この場合、その人物が実際に漫画の関係者ではあったので話がややこしくなりました」と語る。 その結果、「僕はすっかり嫌になってしまい、初めて原作者の権利を行使しました。続編の映像化を許諾しませんでした。それまで事後報告でしぶしぶ押していた判を押さなかったのです。一方で原作者の名乗る人物には、今後、映画に関わらないよう念書に判を押させました」と説明する。 佐藤氏が映像化を許諾しないため、数年後にテレビ局のプロデューサーと初めて会うことになったという。「『どうしたら許諾してくれるのだ』と言うので、『著作権使用料を100倍にしてくれたら許諾する』と言ったら『無理だ』と。『10倍ならいけるかも』『50倍でいいや』みたいなやり取りをしました。お金で解決するのが僕の良いところ。だけど、心は壊れました。映画は第4弾まで作られ大ヒットしました」とつづった。 「それからもテレビ局にアポなし取材を受けたり、関連本を無断で出版されたり、たくさんの嫌な事がありました。弁護士が入り、人間の醜い面を散々見せつけられた頃でした。『もう無理だな』という言葉が頭に浮かびました。そして、契約更新の時期がやってきて、僕はNOの答えを提出しました。こうして映画『海猿』はテレビやネットから消えました」と語った。また、この件が報じられると「死ね」「売ってもらったクセに思い上がるな!海猿はファンのものであってお前のものじゃない!」多くの批判を受けたという。 最後に「今、書いたことは僕に起こった出来事です。他の漫画家がどんな目に遭っているかは知りません。だけど、そこにはブラックボックスがあります。それが良いほうに機能する場合もあれば、悪いほうに機能することもあるでしょう。作家のためを思って働いてくれる編集者もいるでしょう。誠実なテレビマンもいるはずです。不幸なケースもあれば、幸せなケースもあると思います」としつつ、芦原さんについて「『繊細な人だったんだろうな』という感想をいくつか見かけました。多分、普通の人だったんじゃないかと想像します。普通の人が傷つくように傷つき、悩んだのだと思います」と記した。 ■「日本いのちの電話」 ナビダイヤル:0570-783-556(午前10時~午後10時) フリーダイヤル:0120-783-556(毎日・午後4時~午後9時/毎月10日・午前8時~翌日午前8時)