反則投球事件の裏にあるメジャーの不文律
ただ、過去にも立ち入り禁止区域に踏み込んだ例がなくはない。2012年6月のレイズ対ナショナルズ戦では、レイズのペラルタが投球練習の際に、ナ軍側のクレームでグラブの中の松やにがみつかり、8日間の出場停止処分を受けた。この時、クレームをつけたナ軍のジョンソン監督の行為を“卑怯者”と非難したのが、レイズのマドン監督だった。ペラルタは元ナショナルズ。古巣の同僚に裏切られた形になったからだ。当日のワシントンポスト紙は、「相手もベテラン監督なら、この世界の掟を知っているはずだ。この世界では100年か、それ以上、やってきたことなのに、ペラルタ一人を標的にした」というマドン監督の怒りのコメントを紹介している。 今回、レ軍のファレル監督も、禁を破った。だからこそ、試合後にも慎重に言葉を選んだ。「複数の球場カメラで確認しても、異物があるのは、明らかだった。あれ程、はっきりしていたら、さすがに言わざるを得ない。前回の登板で関心が高まっていた中で、起きたんだ。本来(ロージン以外の)全ての物質はイリーガルだ。でも、投手なら誰でも皆、こんな寒い日は強くボールを握りたいだろう。ある程度のことなら、許されもしよう。でも、さすがに、あれは、許容範囲を越えていた」。ファレル監督自身、試合中の不正投球のクレームは、今まで1度もしたことはないという。新たな遺恨勃発の種となるのを嫌ってか、“止むに止まれぬケース”を強調した。 レ軍のペドロイア内野手も「僕は実際、ビデオで確認した訳じゃないから、何とも言えない。試合に勝つことだけを考えていたよ」と、言うに留まった。ピネダの不正を咎め立てれば、逆に自軍の投手にハネ返る可能性を考慮したのかもしれない。ファレル監督が一線を越えた背景には、前日、田中将大投手の餌食になるなど、ア・リーグ東地区最下位を低迷し、切羽詰まっていたということもあろう。連日のブルペンの酷使でこの日は中継ぎ右腕をロースターに加え、投手13人、野手12人という変則布陣で戦わなければならなかった。 幸い先発ラッキーが八回1失点の好投で勝利したが、なりふり構わず、何が何でも勝たなければならない1戦だったのである。ベテラン記者の一人は、「こんなことを指摘し始めたら、レッドソックスの投手だって、安穏とはしていられないだろう」と話した。ファレル監督は、試合後に、必要以上に不正選手を刺激しなかったが、メジャーの不文律を破った、この“事件”は、レッドソックスvsヤンキースの宿敵対決に新たな遺恨を呼ぶ可能性もある。