「川を流れていく小石のように」 【モデル・俳優・編集長】と3つの 靴を履く、山本奈衣瑠の“走り方”
不格好かもしれないけど、しっかりと今を見据えて走る。 2024年4月26日(金)から公開される蘇鈺淳(スー・ユチュン)監督の『走れない人の走り方』では、理想とままならない現実の中で悩みながらも懸命に作品に向き合う、そんな若き映画監督の姿が生き生きと描かれている。 【画像】山本奈衣瑠さんのアザーカットを含めたすべての写真を見る。 “上手に走れない”映画監督・小島桐子を演じるのは山本奈衣瑠。モデルとして活躍しながら、近年は俳優としても活躍の場を広げている。モデルに俳優に、さらには自身が編集長となり「EA magazine」という雑誌を立ち上げるなど、縦横無尽に走り回っているように見える彼女だが「私も桐子と一緒で、上手に走れない人だと思います」と本人は語る。作品について、そして山本さん自身について聞いた。
『走れない人の走り方』は愛おしい作品だと思います
――『走れない人の走り方』では映画祭に入選したことはあるものの、まだまだ新人監督の桐子がさまざまなトラブルに直面しながら、自身が撮りたかったロードムービーの完成に辿りつく姿に好感を持ちました。成長譚というか、彼女に観客自身も寄り添い「頑張って」とか「無理しないで」と自然に感じてしまう。桐子のダイアリーをめくっているような、そんな心持ちになりました。 桐子は不器用な人間で、どんなジャンルでもそれなりに走れちゃったりする子ではないんだと思います。それでいて、周りに迷惑をかけてでも好きなことをやっちゃうとか、私はこれがやりたいんだと我を通そうとしたり、自分勝手な部分もある。でもその強さは、映画を作ること以外自分はできないってことを理解していることの裏返しだったりもして。 私自身も不器用で、要領が悪いところがあるので、彼女に共感する部分は多かったです。でも同時に、私だけでなく、誰しもが少なからず悩んだり考えたりする部分なんじゃないかな。そういう意味でもこの映画は見ていただける皆さんにとっても愛おしく感じられる作品だと思います。
自分の走り方を肯定してくれる場所はきっとどこかにある
――モデルや俳優として活躍されている山本さんを見ていると不器用という言葉とは縁遠いように感じます。 それが全然そんなことないんです。 高校を卒業して、みんなが進学したり就職をしていく中で、私はやりたいこともないのに漫然と就職するのも違うかなって思ってフリーターになりました。でも同時に、当時はどうやって生きていけばいいんだろうってずっと考えていて。 私はたまたまモデルという職業に巡り合って、何かしら自分が得意としている分野はこの世の中に存在するんだ、と気づけたし、自分の走り方を肯定してくれる場所を見つけられただけなんです。 ――世間一般的に働くことや社会に出ることは、ずっと自分のペースではいられなくなるということと一緒な気がします。桐子も予算の問題でやれることに制限がかかったり、プライベートの影響で気持ち的にこれまで通りには走れなくなったりします。 自分に合わないペースで走らなくちゃいけないって、難しいですよね。私もうまくできなくて、バイトの時とかいつも怒られていました。桐子もマイペースではあるけれど、走ってでも撮りたいものは撮るという強い想いがある子。でも、走る意欲はあるんだけれど、走り方がわからない。 最初は自分の「撮りたいもの」を言語化して周りのスタッフに伝えるということをしたがらないですしね。「やりたいことが決まってたら別にさ、映画なんて作らないし」って彼女が言うシーンがあるんですが、これは言葉にすることで固定化されちゃうことへの恐怖もあったんだと思うけど、映画作りの過程で自然と自分の思いが共有されていくものだと甘く考えていた部分もあったのかなと思います。