CRYAMY、野音ワンマン直前! 揺れ動く心境をカワノが語り明かす
身を削るのがキツい。もう削るものが何もない
ーー決まりかけてた事務所とも直前で喧嘩別れ。マネージャーもクビにして、全部自分でやり始めたけど、あまりにも忙しすぎて、何していいかわかんなくなってて。 「幡ヶ谷の呑み屋で、アルビニと音源作ろう!って焚き付けられたんだからね」 ーーで、それを発表したクアトロのワンマンがすごくよくて。その後、同じ店でまた呑みつつ話してたら、次に何やっていいかわからん!とボヤキ始めて。 「やり尽くした感じでさ。あれ以上のライヴ、できないと思った。そしたら『じゃあ次、野音やろうぜ!』って無茶言い始めて。何言ってんだこのオッさん(笑)と思ったけど、だんだんできそうな気がしてきて。その気になったら奇跡的に抽選で当たっちゃうんだもんな(笑)。あれなかったら俺、とっくにバンド辞めてた気がする。アルビニと野音は、バンドをやる理由を与えてくれた。でもその次って、もうないんだよね」 ーー武道館が待ってます。 「無理(笑)。さすがに現実的じゃない。それをやろうとすると、何かを捨てなきゃいけない気がする。あの時俺は、やろうぜって言われて、まだ成し遂げてないことだからここで死ぬわけにはいかんと思ったし、自分を捻じ曲げないでやれる気がした。その2つはきっちりやった。野音、あと100人で売り切れんだよ」 ーーすげえ! 「もういけるよ。立ち見も出すし。困ったのは、仲のいいバンドに、3000人のお客さんが来るライヴをやったやつらがいない(笑)。だから物販の発注数がまじでわかんない!」 ーーでもそこまで人が来るってことも含めて嬉しいでしょ? 「もちろん嬉しい。すごく嬉しい。たぶん、歴史上一番いいライヴになると思うから。リハこれからだけど(笑)」 ーーそんな嬉しそうなのに、もう目標がないから無理だ、と。 「目標がないのもそうだけど、もうしんどい。相当しんどい。曲の作り方が特殊なのかもしれないけど、身を削るのがキツいっすね。もう削るもの、何もないよ」 ーー削らなくてもテーマは出てくるよ。自分の中に。 「そうかなあ」 ーーなんで再結成するバンドがあんなにいると思ってんの。金儲けとか言うやつもいるし、それも否定はしないけど、みんな唄いたいことや違う価値観が生まれてくるのよ。 「それは音楽で40歳くらいまで生き延びるだけの支持や才能があったからでしょ。そういう人たちほど偉大なバンドではないから」 ーー偉大かどうかは人それぞれだけど、少なくとも野音をソールドアウトさせようとしてるバンドじゃん。支持されてるよ。 「まあ……ツアー廻ってて、みんな直接は言わないけど、思ってるんだろうなとは感じたよ、やっぱり」 ーーやめんなよって? 「うん。そう思うけど……うーん。だから俺はこういう人間なの! だから逃げられないようにしようと思ったのにさ、みんな邪魔する(笑)」 ーー背負っていくのも悪くないと思うよ。 「俺は背負ったよ、重たいのをいっぱい」 ーー背負ったものは、1年もすれば軽くなるから。しばらく休みます、でいいじゃん。そこまで休んで、やっぱりもう音楽への情熱が湧いてこないなら、もうしょうがない。 「休むねえ……」 ーー野音が終わって考える、でいいよ。徹底的にやるんでしょ。 「3時間はやると思うよ。CRYAMYを全部やるくらいの勢いで。たぶん2部構成になるな」 ーーそれをやりきってしばらく休む。音楽離れて、花屋さんで仕事でもして、1年もしたら音楽やりたくなるよ。 「そんなことないと思うけどね。早いぜ1年なんて。1年も経てばみんな忘れてるよ、絶対」 ーー忘れるわけないじゃん。 「いや、俺は峯田和伸や五十嵐隆みたいに才気煥発じゃないから。才能があったらもっと俺のことみんなチヤホヤしてるって」 ーーしようとするのに、それを拒否するからだよ。 「いやいやいや(笑)。もう忘れてもらったほうが楽だけどね」 ーーだけど忘れられないよ。みんなそう思ってるから。絶対ファンはカワノもCRYAMYのことも忘れない。普通に君の音楽が人生の救いになってる。そんな人が3000人いるわけ。ほぼノンプロモーションで、あんな尖った作品のバンドにさ。そんな高いハードルを越えてきてる奴らが、そう簡単に忘れるはずないよ。 「それはわかる……だから揺れ動いちゃうけど、でも何度も言うけど疲れたし、何をやっていいのかわからないんだって!」 ーー話を変えます。アルバムが出て4ヵ月、ようやく「天国」のMVが完成しました。 「どうかしてるよね(笑)」 ーーロケ地が生まれ故郷の種子島。 「あれ、最後までゴネたんだよ俺。絶対に行かない!って」 ーー家族といろいろあったからな。 「でもいろんな人から『そこから逃げんな。あのアルバムは、お前が故郷と向き合って、最後の1ピースをはめないと完結しない』って言われて。そうか、と思ってさ。お母さんがやってる美容室の前までは歩いて行った。お店見て、営業してたから〈元気でやってるんだなぁ〉と思って、そのまま帰った」 ーーそのドアを開けないわけ? 「開けない。母親には俺、負い目があるから。こういう息子でごめんねって(笑)」 ーー親はそう思ってないって。親父さんは? 「もう会ってないからわかんない。島にはいるらしいけど。母親とは別居してるらしい」 ーーじゃあ偶然会うかもしれないじゃん。 「だから『街中で撮りたい』ってスタッフに言われたけど、全力で拒否した(笑)。でもあまり感じるものはなかったな。それより島から出たあと鹿児島で住んでた家がなくなってて。帰る場所なくなったな、って気分になった。そっちのほうが」 ーー自分にとって帰る場所はそっちだったのね。 「帰ろうとも思わなかったけど、なくなってたら悲しかった。前も話したけどさ、その家の近くに住んでたおっちゃんがいて。俺が『バンドやるから東京に行く』って言った時、みんな『お前がそんな有名になるのは、人をぶっ殺した時か、ぶん殴って捕まった時だよ』って。俺も『そうだね』って笑ってた。でもそのおっちゃんだけは『お前はビッグになるんだよ』っつってたから」 ーー希望だったんだろうな。 「いやぁ、ビッグになったね(笑)。やっぱり田舎出身だから、都会に出て名前を残すことから逃れられないんだよ。その意志はあったし。その上で全力を尽くした結果が今だから」 ーーだから具体的な目標にこだわるのかもね。ただ続けることとか、ファンとの繋がりに縋るのを嫌がるというか。 「上を目指さないと食えないしね」 ーー3000は充分食えるじゃん。 「それをいつまでもやれたらね。ダラダラやって生活を成り立たせるとかは向いてないから。結局、世間や業界からまったく見向きもされないとさ、そこまで行けないのよ」 ーー何度も言うけど、それを拒否したのはお前だろうが。 「それは拒否するしかない理由があったってことだよ。俺の信念曲げて、頭下げてまでやるもんじゃないもん。まあ、いいんじゃない? 充分幸せだったよ」 ーー野音にさ、カワノと同じような目をした3000人以上が集まるわけだよ。それ見たら何か変わると思う? 「どうだろ……見たことないからね」 ーーそれを見たら何か感じると思うけどな。 「うーん……とにかくやってみるよ。それからだ」
金光裕史(音楽と人)