「大瀧詠一」と「大谷翔平」を生んだ土地に流れる鮮やかな駅メロ 名曲「君は天然色」の使用を許可した「松本隆」の思い
生前の大瀧さんは、故郷についての発言を殆ど残していない。 「秘密主義で、自分のことを喋りたがらなかった。小・中学校、高校時代や家族の話は聞いたことがない。こうして取材を受けるのも『余計なことしやがって』と怒っているかもしれない。『こうしたら喜ぶのでは』と普通に思うことを怒る人だった。それが照れ隠しなのか本心だったのかは今もよく分からない。そうはいっても彼も人間だから。『駅メロ』は彼のために僕がOKした。『故郷に錦を飾る』という感じ。喜んでくれていると思う」(松本さん) 大瀧さんとの一番の思い出は、1969年、細野晴臣さんと3人で福島から軽井沢、清里と出かけたドライブ旅行だった。運転は松本さんと細野さんが交互に担当した。清里の丘の上で車中泊し、180度の視界が広がり、小海線を走る蒸気機関車が見渡せたことが印象に残っているという。 2人の関係は「けんかしても解散しても、友情はゆるぎないものだった、たとえて言えば東京タワーのような」(同) 高くて固い、深い友情は、大瀧さん亡き後の今も、続いている。
「恋するカレン」にかけた「カレーパン」
石川さんの「街おこし」は今も続いている。 「若い子たちが大瀧さんをほとんど知らなくて。『君は天然色』のメロディを聞くと『ああ、あのCMの曲』と気が付くようですが。もっと知ってほしいですね」 経営する「ROYALジャマイ館」では大瀧の代表曲の一つ、「恋するカレン」にかけた「恋するカレーパン」を販売して盛り上げる。毎年のように新作を出し、これまでに「サバカレーパン」、江刺のリンゴを使った「江刺リンゴのカレーパン」と進化してきた。最新作は、地元のピーマンを使ったカレーパンを検討中。 「地域で農業を学ぶ高校生たちと一緒にコラボレーションできたらいいなと。僕らが駅メロを実現させた経緯は、ぜひ他の地域でも参考にしてほしいです」 毎年12月30日の大瀧さんの命日には「ジャマイ館」で追悼イベントを実施、駅構内の展示もファンのために定期的に入れ替えている。夢は、大瀧さんの銅像や記念館設立までと広がっていく。
藤澤志穂子(ふじさわ・しほこ) 元全国紙経済記者。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。早稲田大学大学院文学研究科演劇専攻中退。米コロンビア・ビジネススクール客員研究員、放送大学非常勤講師(メディア論)、秋田テレビ(フジテレビ系)コメンテーターなどを歴任。近著に『釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝』(世界文化社、2020)、『学習院女子と皇室』(新潮新書、2023) デイリー新潮編集部
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