アイデア合戦が過熱中…「缶コーヒー」の雌雄を決するのは″テレビCM″と″コラボ″だ!
「ジョージア」「ボス」「ワンダ」「ファイア」「ダイドーブレンド」「ポッカコーヒー」「UCC」…
古いアパートのドアを開け、少し眩しそうに朝日に顔を向ける作業着の男。深呼吸をしてから早歩きで向かった先は、小さな自動販売機だ。ポケットから取り出したコインを入れ、いつもと同じ缶コーヒーを選んで車へ向かう。これが朝食の代わりなのか、エンジンをかける前に車内で一気に飲み干すと、男は仕事現場へと向かった――。 明暗くっきり…缶コーヒー業界 令和の勢力図【画像】 ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース(78)が監督し、役所広司(68)が主演した話題の映画『PERFECT DAYS』(’23年12月22日公開)は、こんなワンシーンから始まる。渋谷区のトイレ清掃員として淡々と、平穏な日々を繰り返している主人公にとって、朝の缶コーヒーは大事なモーニングルーティンの一部だ。 「缶コーヒーの起源には諸説ありますが、一般的にはUCCが’69年に発売した『UCCコーヒー ミルク入り』と言われています。この商品は発売当初こそ苦戦したものの、翌’70年に開催された大阪万博で爆発的なヒットを記録しました。万博会場内の飲食店に積極的な販促をかけ、缶コーヒーの認知度を上げることに成功したのです。 ’72年にはポッカレモン(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ)が『ポッカコーヒー』を発売。UCCミルクコーヒーは乳固形分の比率が高く″乳飲料″に分類されますが、ポッカコーヒーは”コーヒー飲料”になります」(経済ジャーナリストの高井尚之氏) ファミリーレストラン「すかいらーく」が初出店したのが’70年、マクドナルドの日本上陸が’71年。日本の食卓の欧米化とともに、缶コーヒーのシェアは拡大していった。以来、働く人の一服のお供として、缶コーヒーは広く受け入れられていった。ところが――現在、缶コーヒー業界はかつてないピンチを迎えている。高井氏が続ける。 「ペットボトル容器の普及や無糖ブームの影響で、お茶やミネラルウォーター炭酸水の人気が高まったのです。自販機の設置台数の減少も缶コーヒーの売り上げ減の大きな要因です。’00年の約560万台をピークに減少を続け、’20年に入ってからは約400万台にまで落ち込んでしまった。 タバコ離れも関係しています。タバコとコーヒーの相性の良さが″一服需要″を支えていたのですが、健康ブームの拡大で喫煙者が減り、お茶や水を飲む人が増えたのです。’10年代に普及したコンビニコーヒーに消費者が流れたのも大きかった」 逆風にさらされている令和の缶コーヒー業界は、コカ・コーラの「ジョージア」とサントリーの「ボス」という二大勢力と、それを追いかけるメーカーとで明暗がくっきりとわかれている。 「ジョージアの覇権を支えている最大の要因は、コカ・コーラの自販機設置台数の多さです。その数は集計方法によって変わるのですが、76万台とも98万台とも言われています。業界2位のサントリーの約2倍とダントツです。 ジョージアが発売された’75年は、アメリカへの憧れが強かった時代。アメリカを象徴する飲み物として、コーラが大流行していました。当時の自販機で、そんなコカ・コーラの隣にあったのがジョージアだったのです」(高井氏) コカ・コーラは設置台数に陰りが見え始めた’10年代から、自販機頼みだったマーケティングを変え、品質向上により一層力を入れるようになったという。飲料専門家の江沢貴弘氏が解説する。 「’14年に猿田彦珈琲とコラボした『ジョージアヨーロピアン』シリーズを発売。現在は『ジョージア 香るブラック』がヒットしています。 『香るブラック』の成功のカギは、容器の形状にあります。最近流行りのボトル缶タイプで、スクリューキャップを開けた時に、淹(い)れたてのドリップコーヒーの香りがするようになっている。 また、ボトル缶は通常の缶よりも口径が広いため、香り高いコーヒーが舌全体に当たり、味わいを感じやすい。この小さな変化を商品に落とし込めるコカ・コーラの技術力はさすがです」 一方、サントリーはビールや洋酒を得意とする自社の強みを活かし、ボスをヒットさせた。 「輸入した洋酒を使って飲みやすい商品を生み出したり、カクテルアワードを主催してバーテンダーを束ねたりと、バランス力に長けた商品開発が売りです。1000種類以上の試作品を作ってベストな味にたどり着き、’92年にボスを発売しました。 マーケティングやブランディングにも強いサントリーは、トミー・リー・ジョーンズ(77)を起用したCMで、同社のコーヒーを『働く人の相棒』と印象付けることに成功しました」(江沢氏) ボスのCMでブルーワーカーに扮した役所広司は、冒頭の映画の中でもボスの缶コーヒーを飲んでいる。 ボスと同様に、印象的なCMで人気を博したのが、アサヒ飲料の「ワンダ」だ。 「ワンダのCMといえばタイガー・ウッズ(48)。’97年発売で、’05年頃まではタイガーの全盛期に合わせるように好調でしたが、彼の不振とともに売り上げも落ちた。 ’05年には仲間由紀恵(44)を起用した『モーニングショット』のCMが話題を呼びましたが、同年に放送されていたドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)が終わると、やはりワンダの存在感も薄れて……というパターンを繰り返しています。現在、アサヒ飲料はコーヒーよりも、『ウィルキンソン』や『三ツ矢』といった炭酸に力を入れています。 『ファイア』のキリンも、コーヒーより『iMUSE免疫ケアウォーター』などプラズマ乳酸菌事業に力を注いでいます。また、同社は紅茶部門の圧倒的トップブランドである『午後の紅茶』を持っていますから、缶コーヒーは少し優先度が落ちてしまう」(前出・高井氏) 一方、’06年にタリーズを買収した伊藤園は、強力コラボで人気商品を生み出すことに成功した。 「ボトル缶タイプの『タリーズコーヒー』は、有名コーヒーチェーンの名を冠した缶コーヒーの唯一の成功例と言えるでしょう。スターバックスはサントリーと組んでいますが、伊藤園の子会社であるタリーズほど密な関係ではない。委託生産ではなく、共同開発をすることで、タリーズの店の世界観を再現することに成功したのです」(高井氏) 缶コーヒー離れに対抗し、人気アニメとのコラボによって若年層の開拓を狙うのが、ダイドードリンコだ。 「『東京リベンジャーズ』や『呪術廻戦』、『鬼滅の刃』など、その年ヒットしたアニメとのコラボを確実に実現しています。ダイドー以外にも、ワンダが『ワンピース』、ボスは『SPY×FAMILY』とコラボ。他の清涼飲料水でコラボ商品はあまり見かけませんが、リラックスするために飲むことの多い缶コーヒーは、遊び心を持ちやすいのでしょう」(マーケットアドバイザーの天野秀夫氏) スターを起用したCMで働く者たちの支持をガッチリと掴むのか、ユニークなコラボで新しい顧客を獲得するのか――。缶コーヒー業界の生き残りを懸けた戦いは、かなりホットなものとなっている。 『FRIDAY』2024年2月16日号より
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