公選法違反に手話者嫌がらせ…都知事選「売名行為」ありきの候補者を取り締まる「ひとつの方法」
「供託金」に意味はあるのか
次に思い浮かぶのは供託金の引き上げだ。都道府県知事選挙の場合、供託金は300万円で、有効投票総数の10分の1に達しなければ供託金は没収される。 ちなみに、300万円に設定されたのが1992年である。東京都区部の消費者物価指数について1992年98,2023年105.4なので、この間のインフレ率を考慮すれば320万円にしてもいい。しかし、これでは抑制効果は少ないだろう。仮に大幅に引き上げても、どこまで抑制効果があるのか疑問だ。 しかも、供託金の引き上げの評判は悪い。そもそも供託金により立候補を制限するのは選挙権の侵害であり、売名かどうかは有権者が判断すべきと言う意見がある。 また、高額の供託金について、選挙権を侵害するという訴訟も多くなされている。ただし、最高裁は「供託金制度は立候補を萎縮させる効果があり、立候補の自由に対する制約になっている」としつつも、「制度決定は国会の裁量で、それを逸脱しているとは言えない」としたが、今の段階での供託金引き上げには相当な批判が生じるだろう。 それでは、先進国ではこの問題にどのように対処しているだろうか。国会図書館調べでは、供託金は、OECD諸国で38か国中13か国が採用しているに過ぎない。G7国では日本とイギリスだけだ。 かつてはフランスとカナダも供託金制度を導入していたが、フランスは1995年、カナダは2018年に廃止された。。G7の他の国、アメリカ、ドイツ、イタリアで供託金制度はない。なお、イギリスの供託金は国政選挙でも10万円に満たないほど少額だ。こう考えると日本だけが先進国の中で高い供託金で突出している。
世界ではどうしているのか
では、他国がどうしているかといえば、一定の有権者の署名を義務つけている国が多い。国政選挙であるが、ドイツでは200名、カナダでは100名、フランスでは500名などといったところだ。 であれば、日本でも現実的な案は、一定数の有権者の署名の義務付け(選挙人推薦)だろう。これを現在の供託金と併用すれば、今回のような泡沫候補の大量出現をある程度防げるだろう。 推薦した人はそれなりの責任があるので、立候補者の行動は自ずと自制される。これを出馬が経済的にも「売名行為」になる国政選挙や都道府県の知事選挙に導入することを検討すべきではないだろうか。
髙橋 洋一(経済学者)