なぜワクチン反対派になるのか リベラルと陰謀論とスピリチュアル…「懐疑」への入り口は
一度なったら戻ってこない
以上の3点のほかにもポイントがあると、鳥海さんは言います。 「ワクチン懐疑派になる人はいたけれども、逆はほとんどない。一度懐疑派になった人が戻ってくることは少ないんです」 2020年1月から2021年12月にかけて、ワクチンへの懐疑心が「低い」グループから「高い」グループへと変わったアカウントは約2千個ありましたが、逆に「高い」から「低い」へと変わったアカウントは一つもなかったのです。 懐疑心が「中」から「高い」へ移ったアカウントは6千個ありましたが、「中」から「低い」への移動は1千個だけでした。 研究チームは論文のタイトルで「反ワクチンの『ウサギの穴』」と表現しています。 「不思議の国のアリス」の主人公が穴に入ったときのように、陰謀論やスピリチュアルが入り口になって、ワクチンへの懐疑心を代弁してくれる政党への支持という「森」へ迷い込むーー。そんな意図をこめたといいます。 また東大のプレスリリースには、ワクチンを疑わない人は「ウマ娘」への関心が強い人が多いことを示したイラストがあり、Xで話題になりました。 「あれは『ウマ娘をやっているとワクチン懐疑派にならない』ということではなくて、日本のツイッター空間には『ウマ娘勢』のような、ゲームとかマンガを好んでいる人が多かったというだけの話です」 この研究の成果から、私たちが参考にできることはあるのでしょうか。 「疑い始めると、次から次へとどんどん新しい『ネタ』を見ることになって、そこから抜けづらくなります。人間には一貫性を保とうとする性質がある。『ワクチンは悪いものだ』と考えると、『そのワクチンを推奨している政府は正しくない』となる。すると、『正しくない政府が進めてくる政策は正しくない』と判断せざるを得なくなる。連鎖的に続いていってしまう」 「『脱原発』がきっかけで政府に批判的になり、その結果としてワクチンにたいして不信感を持つということもあります。一貫性を保つことは人間の性質ではあるものの、そこまで単純化せずに物事には良い面も悪い面もあると柔軟に考えることも必要ではないでしょうか」
情報も「偏食」には要注意
偏食が体によくないのと同じで、偏った情報にばかり触れるのは好ましくない。鳥海さんはそんな考えから、「情報的健康」の大切さを訴えています。 「SNSで一定の思想をもった人たちばかりをフォローすることは、情報に偏りを生じさせる大きな危険性があります。その危険性を認識して、それでも特定のものしかみないのは自由ですが、そのことを知らないというのは問題でしょう。『朝日新聞しか読まない』というのは自由ですが、朝日新聞がどういう新聞なのかを知ったうえで読むことが大切です」