元ソフトバンク・猪本健太郎さんは9月に生花店をオープン「大事なのは愛情と情熱」
【あの人に逢鷹】ソフトバンクとロッテで捕手として活躍した猪本健太郎さん(33)が今年9月に福岡市中央区薬院に生花店「フラワースタジオエス」を開業した。叔父と夫人が営んでいて身近に感じていた仕事にチャレンジ。長年組んだバッテリーのように息ぴったりの夫人と切り盛りしている。現役時代のキャッチャーミットから生花用ハサミなどに持ち替え、花の魅力を発信しようと奮闘中だ。 真っ赤なバラにあるトゲや不要な葉っぱを丁寧な手つきで取り除いていく。猪本さんの日常の一コマだ。仕入れた花を店頭に並べるための準備で「この子らをどうグラウンドに送り出すか。大事なのは愛情と情熱」と野球に例えて話す。プロ野球界から離れ、花に囲まれた新たな人生を歩み始めた。 08年育成ドラフトでソフトバンクから4位指名を受けて入団。入団5年目の13年に支配下登録をつかみ、ロッテでもプレーした。現役9年間で1軍出場は16試合だったが、明るい性格でファンから愛された。ソフトバンク時代の登場曲は14年に亡くなった俳優の高倉健が歌った「唐獅子牡丹」や「男なら」。出演映画をほとんどチェックしたという“健さんフリーク”は自身の見た目も少しこわもてだが、陽気なキャラとのギャップで人気者だった。 引退後はソフトバンクでブルペン捕手を務め、やりがいを感じていたが、昨年「花屋をやる」と決断。叔父と夫人の実家が生花店を営んでいて身近に感じていた仕事だった。図鑑を買うところから始めて、店頭に並ぶ花の特徴を頭に入れるなど日々努力している。 季節ごとに旬の花があるのが醍醐味(だいごみ)だという。「お花はいつかは枯れるもの。一瞬をどう生かして輝かすか。ひとつの命と考えれば凄い愛着が湧きますし、魅力もたっぷりあります」と熱く語る。好きな花はバラだ。「一番格好よくないですか?知らない人がいないと思う。プレゼントするならバラですね」と笑み。横にいた夫人から「もらったことないけど」と優しく突っ込まれるなど息ぴったり。知識豊富で「専属コーチ」と表現する夫人から学びつつ、「また育成選手から支配下になれるように頑張りたい」と知識を深めていくつもりだ。 ソフトバンクの日本シリーズ出場を記念して球団にボール型のスタンド花を贈り、5日の和田毅氏の引退会見でも感謝の思いを込めて花を贈った。華麗な転身を遂げた元鷹戦士がこれからも花の魅力を発信していく。 (杉浦 友樹) 猪本さんに現役生活の一番の思い出を聞くと、「ホークスではないんですけど」と前置きした上で、ロッテ時代の17年8月29日のオリックス戦(ZOZOマリン)を挙げた。ロッテ在籍時に一度だけ家族が観戦に来た試合で「7番・一塁」でスタメン出場。5回にプロ9年目で初の適時打を放った。初打点、初の決勝打、さらに初のお立ち台も経験。「ロッテはお立ち台に立つと人形をくれるんです。あれは捨てられないですね」と大事に保管している。 その日は当時の伊東勤監督の誕生日で円陣では「監督の55歳の誕生日。55点取りましょう!」とらしく盛り上げた。この年限りでユニホームを脱ぎ、唯一の後悔は1軍で本塁打0だったこと。「打ちたかった。ホームラン打ったら辞めますと言っていたので」と悔しさをにじませ話した。 ◇猪本 健太郎(いのもと・けんたろう)1990年(平2)12月23日生まれ、熊本県出身の33歳。鎮西では甲子園出場なし。08年育成ドラフト4位でソフトバンクに入団し、13年に支配下登録を勝ち取る。16年オフに戦力外通告を受け、テストを受けてロッテに入団。17年限りで現役引退。通算成績16試合25打数3安打、打率.120、2打点。18年から昨年まではソフトバンクで1、2軍のブルペン捕手を務めた。右投げ右打ち。