Z432購入後も粘り強く探し続けたオーナー。レースのために誕生した、DOHCエンジン搭載の特別なフェアレディZ
約10年にわたるS30フェアレディZの歴史の中には、レースでの使用を前提とした特別なモデルが存在した。それがフェアレディZ432‐Rである。 【画像25枚】DOHCエンジン搭載のZ432を、各部の軽量化などでさらに特別にしたレース専用モデル ベースとなったのはPGC10スカイラインGT‐Rと同じS20型DOHCエンジンを搭載したフェアレディZ432。その名称の由来が4バルブ、3連キャブレター、2カムシャフトにあることは、あまりにも有名だ。そしてそのZ432に徹底した軽量化を施し、完全なレース専用車両として開発されたのがZ432‐Rである。 通常はスチール製となるフロントエプロンは軽量なFRPで製作され、ドアウインドー、サイドウインドー、テールゲートウインドーにはアクリル製を採用。シートはFRPに布を貼ったバケットシートに置き換えられ、ヒーターやベンチレーターはもちろん、グローブボックスや灰皿などの装備品が取り除かれた。 それにより車両重量はZ432の1040㎏に対して、960㎏まで軽量化されている。 その一方、レースでの使用に最適化するため、FRP製のアンダーカバーとリアスポイラーを装着して空力性能を向上。燃料タンクは100ℓに増大し、エンジンオイルクーラーを追加装着。標準ホイールは購入後の交換を想定して、スチール製が採用されていた。 そんなZ432‐Rは、当初は国内ツーリングカーレースに参戦するプライベーター向けに販売され、70年4月に開催されたレース・ド・ニッポン富士6時間においては北野元/長谷見昌弘コンビが優勝。追随するレース参加者も多く現れ、人気を博するかに見えたのだが、S20型エンジンのピーキーなエンジン特性が災いし、次第にレース車両の主流は信頼性と拡張性に優れたL24型エンジン搭載の240Zへと移行していったのである。 悲運にもレース車両として短命に終わったZ432‐Rは、在庫処分として1972年になって一部が市販化されることとなった。真偽不明ながら、一説によると23台とも30台ともいわれるナンバー付きのZ432‐Rが、公道へと放出されたと囁かれている。 そんなZ432‐Rの希少性をリアルタイムで知るのが、この個体を所有するオーナーだ。 オーナーにとってZ432‐Rは長年にわたって所有することを夢見た1台。念願がかなったのは18年春のことだった。 「幸運なことに、かねてからの友人から譲ってもらえる機会を得たのですが、20代の頃からあこがれ続けたZ432‐Rを、現実に所有することができて本当にうれしかったです。私が初めて購入したZは、71年に新車で買ったフェアレディZ‐Lでした。当時は東京日産のディーラーでメンテしてもらっていましたけれど、Z432‐Rの現物を見たことは一度もなかったですね。当時は真似をして『432』のエンブレムを自分のZに付けて楽しむのが精一杯でした(笑)。その頃からいつかは本物に巡り合えることを夢見ていました」 当時をそう振り返るオーナー。 2010年頃から本腰を入れてZ432Rを探し始めたそうだが、先にZ432と巡り合うことができたため、14年に購入。 それでも諦めずにZ432‐Rを辛抱強く探し続けた結果、現在の車両との運命の出合いを果たした。 友人である前オーナーを含めて、3~4人のオーナーによって所有されてきた経歴を持つ、このZ432‐R。限りなくオリジナルに近い状態を保っており、ボディにレストアが加えられたこともない。ずっと室内保管されていたため紫外線による劣化も少なく、まさに極上という言葉がピッタリなコンディションが保たれている。 全ての画像を見る オーナーが購入後に行ったのは、キャブレターのオーバーホールやエンジンマウント、ブッシュ類の交換といったメンテナンスが中心。 イベントなどの特別な時以外はあまり乗ることもないらしいが、ミッションの入りもよく、振動もないなど、機関系は絶好調だそうだ。 オーナーはZ432とZ432‐Rの両方を所有した貴重な経験を持つわけだが、乗り比べてみて感じた違いについても聞いてみた。 「やはりZ432‐Rの方が不思議と軽やかなんですよね。加速した時やコーナリングの時の軽快感がかなり違うので、運転していて本当に楽しいです。共通している点は、やはりS20型エンジンの独特なフィーリングです。S20型は現代でも十分に通用するエンジンだと思いますよ。これまでR33スカイラインGT‐R NISMO 400RやR35GT‐R EGOISTなども所有してきました。昔から日産車の何が好きかといったら、やっぱりエンジンなんですよね。日産が作ってきたエンジンは時代がたっても廃れることがないんです。 S20型エンジンも、Z432‐Rというクルマも、この先、再び生まれることが決してない存在ですけれど、乗れば現役のクルマのように、本当にいい走りを見せてくれます。これから一生の宝として大事に乗っていきたいですね(笑)」と楽しそうにインタビューにこたえてくれた。 主要諸元 Specifications 1972年式 日産 フェアレディZ432-R(PS30-SB) 全長×全幅×全高 4115mm×1630mm×1290mm ホイールベース 2305mm トレッド前/後 1355mm/1345mm 最低地上高 165mm 室内長×室内幅×室内高 835mm×1390mm×1070mm 車両重量 960kg 乗車定員 2名 0→400m加速 15.8秒以下 最高速度 210km/h以上 登坂能力 tanθ 0.462 最小回転半径 4.8m エンジン型式 S20型 エンジン種類 水冷直列6気筒DOHC 総排気量 1989cc ボア×ストローク 82.0×62.8mm 圧縮比 9.5:1 最高出力 160ps/7000rpm 最大トルク 18.0kg-m/5600rpm 変速比 1速2.957/2速1.858/3速1.311/4速1.000/5速0.852/後退2.922 最終減速比 4.444 燃料タンク容量 100リットル ステアリング形式 ラックアンドピニオン(ギア比16.4) サスペンション 前後ともストラット・コイル ブレーキ前/後 ディスク/リーディングトレーリング タイヤ 前後とも6.95-14-4PR 発売当時価格 150万円 初出:ノスタルジックヒーロー vol.192 2019年4月号 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
Nosweb 編集部