<解説>「薬屋のひとりごと」 どうしてここまで盛り上がったのか
それもここ数年のブームを機に、アニメの面白さを知ったアニメファン以外の層が、次にそのジャンルの多様さに触れ、話題作だけでなくより自分好みの作品を探求していくフェーズに入ってきていることの表れでもありそうです。そうして多くの人々が、たとえばサブスクサービスの「あなたにおすすめ」などを通して様々なジャンルに手を伸ばしているタイミングで、刺さる層にしっかり届いたのではないでしょうか。
さらに、本作が特に前述したF2層以上に刺さった要素としてひとつ大きいと思われるのが、“宮廷もの”というジャンルです。
本作は、ミステリーやラブコメ要素も多分に含みながら、どろどろの人間関係や、華やかさと容赦のなさが同居した世界観といった同じく宮廷もの特有の人気要素もしっかりと詰まっています。こうした長年F2層以上から特に高い人気を誇るアジアの宮廷ものの世界観を持つ本作は、様々なジャンルに手を伸ばす中でもいきなり異世界ものや日常系にいくよりはハードルが低く、かつしっかり刺さる作品でもあったのでしょう。
そんな、刺さる人にはしっかり刺さる物語が、個性的で魅力的なキャラクターと共に美しい映像で描かれる様子に、中には子供と一緒に見始めて自分の方がハマってしまったという人も少なくないのではないでしょうか。作品そのものの魅力はもちろん、本作はこうして、幅広い層に多様なジャンルが受け入れられはじめる中で、刺さる層にしっかり刺さる要素も大きな後押しとなって、予想していた以上の盛り上がりまで生んだのだと思います。
同じように今後、本作をきっかけにアニメの“宮廷もの”を知ったことで、一昨年の「後宮の烏」を「あなたにおすすめ」伝いに視聴したり、4月からの「烏は主を選ばない」までこのジャンルを深掘りしていく人も出てくるかもしれません。また、同じタイミングで話題になっている「葬送のフリーレン」で初めてエルフやドワーフ、勇者や僧侶といったファンタジーの文法に触れたことで、その魅力を知った人々が、同じジャンルの作品にも手を伸ばしていくことだってあるでしょう。