意外と知らない、日本と欧米企業には「決定的な差」があった
「強み」の統合・再編も視野に
これに対し、これまで多くの日本企業は、高度な技術開発やコストダウンの徹底で利益を確保しようとしてきた。だが、日本企業が得意とする機械や装置といったハード技術は陳腐化しやすく、結構早く流動化する。コストカットもそうそう効果を上げられるわけではない。とりわけ、国内マーケットが縮小する中ではこうしたやり方では利益を得にくく、価格決定権を握ることは難しい。 他方、マーケットの縮小で数量を稼げなくなる以上、製品やサービスの価格を安易に下げることは自ら首を絞めるようなものだ。先述したように、人口減少社会で企業が生き延びていくためには「よりよいものは、それ相応の価格で」という消費行動を定着させていかなければならない。そのためにも、技術力の高さをブランドとして明確化させることで高い利益率を追求し、それによって企業価値そのものを高めることが必要なのである。 ブランドと聞くと「商標」をイメージする人もいるだろうが、商標はブランドの1つの要素に過ぎない。ブランドとは、企業や商品の特徴や性質を示す総体のことである。消費者からすれば、そのブランドを選択すれば、自分が求める「特定の価値」を必ず獲得できるということだ。ブランド力が強くなればなるほど消費者への影響力が増し、価値観や嗜好に影響を与えることだって不可能ではない。 ブランドは人口減少に打ち克つための大きな武器だと先述したが、そうである以上、強化だけでなく、知的財産権でしっかり保護することも一層重要となる。ブランドと知的財産権はセットなのである。 日本企業には知的財産に疎いところがあるが、今後海外に活路を見出さざるを得なくなるからにはそうは言っていられなくなる。知的財産に対する理解を深めなければ、ブランドを確立させている技術力を侵害され、ブランドそのものを失うことになりかねないからだ。 かつて世界に躍進した日本メーカーは開発から生産、販売までを1つの企業ですべて行う「垂直統合型ビジネスモデル」が多かった。高い機密性を維持できるメリットがあり、ブランド力をつける特許技術などが奪われることなど心配をしなくてもよかった。このモデルは日本の「ものづくり」を世界最高水準に押し上げる要素の一つとなっていたが、一方で知的財産への意識を鈍感にさせてきた。 しかしながら、人口減少社会においては、スペシャリストを育てている余裕はなく、外部から獲得せざるを得なくなる。このため、製品の核となる部分の開発、製造、販売のみ自社で行い、それ以外は外部委託する「水平分業型」へとシフトする企業が増えていくことが予想される。海外マーケットに本格的に進出するようになれば、「水平分業」の提携先が海外企業となるケースも増えよう。企業連携において知的財産権を交渉カードとして活かすためには、知的財産権への理解を深めることがどうしても不可欠になってくるのだ。 「水平分業」に限らず、経済のグローバル化が進むにつれて企業同士の連携も増える。当然ながら、連携相手は日本企業とは限らず、デジタル貿易も増大していく。その際、相手企業に1つでも必須特許があれば、それぞれが所有する知的財産権の使用をお互いに許諾し合うクロスライセンス契約を求められる可能性が大きくなる。ここでも知的財産権への理解がカギを握る。日本は2000年代に、半導体や液晶に関する知的財産が大量に海外流出したという手痛い体験をしている。 人口減少社会においては、ブランドの構築を含めた知的財産戦略がいかに重要であるかということをお分かりいただけたと思うが、企業経営者の中には、「ブランド力を高めると言われても……」という人も多いだろう。そうした企業はあまり難しく考えず、まずは自らの組織を再点検することだ。自社のどのような知的財産が競争力や差別化の源泉となり得るのかを明確にすることから始めればよい。 そうして見出した「強み」が将来どのような価値創造やキャッシュフローの創出につながっていくのか、その可能性を分析し、説得力あるロジックとして組み立てて投資家や金融機関に説明することである。 先述したように、勤労世代が減る人口減少社会においては「水平分業」が増えざるを得ない。持ち得る「強み」を一社だけでは発展につなげられないと考えるのであれば、他社との連携で相乗効果を狙うことだ。医療とは無関係だった中小企業が独自の技術を買われ、「医工連携」によって先端的な医療器材の生産に携わるメーカーに生まれ変わったという事例もある。他方、「連携も難しい」と考えるならば、思い切ってM&A(企業の吸収・合併)で事業部門ごと売却するのも選択肢である。「強み」をアピールすることで企業価値を高められたならば、売却交渉を有利に進められるだろう。 経産省の資料によれば、企業を成長させるための方法について、日本企業の64%は「自社内での研究開発」と回答しているが、外国企業は「他社との戦略的提携」や「他社のM&A」を通じた成長も選択肢にしており、日本企業の思考の偏りが鮮明となっている。 日本の場合、経営者が高齢化して事業承継が難しくなっている企業も増えてきている。そうした企業の「強み」を活かせずに解散・廃業してしまうことは、日本経済全体にとっての大きな損失だ。買収した企業が、買い取った企業が持っていたさまざまな「強み」を統合、あるいは掛け合わせることで新たな相乗効果を生んだり、さらに企業価値を高めることも期待できる。決断するなら早い方がいい。 企業の合従連衡というのは、人口減少社会おいては結構重要な能力だ。国内マーケットが縮んでも成長を図っていくには、雇用の流動化と合わせてM&Aなどによる企業の流動化も促進させることだ。そうすることで、海外マーケットでも堂々と戦える企業を1つでも2つでも多くつくるべきなのである。柔軟さに欠けていたのでは、人口減少に打ち克つことはできない。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)