高橋大輔の挑戦「お互い起こる化学反応に新しいエンターテインメント実感」5年ぶり「氷艶」
<情報最前線:エンタメ 舞台> 高橋大輔(38)主演の氷上エンターテインメント「氷艶hyoen2024-十字星のキセキ-」が、8日に横浜アリーナで開幕する。宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をモチーフにした物語を、フィギュアスケートならではのスピード感、展開力で描いていく。どんな挑戦も「考えるより、やっちゃうタイプ」。チーム一丸となって高め合う過程が楽しいという。(敬称略)【梅田恵子】 【写真】主演する「氷艶hyoen2024-十字星のキセキ-」メインビジュアル ◇ ◇ ◇ 「氷艶」は、スポーツと日本文化を融合したストーリー仕立てのアイスショー。第1弾(17年)は松本幸四郎(当時・市川染五郎)演出で歌舞伎とコラボ、第2弾(19年)は宮本亞門氏演出で源氏物語の世界に挑んだ。5年ぶりの第3弾となる今回は、日本文学の名作「銀河鉄道の夜」をモチーフとした物語だ。 再び立つ「氷艶」の舞台に「とにかくわくわくしています」と笑顔。「僕らスケート陣は芝居や歌を、俳優陣の方たちはスケートを。お互い挑戦し合って起こる化学反応に、新しいエンターテインメントを実感しています」。大野拓朗(35)ら俳優陣の対応力、表現力にも刺激を受けており「皆さん、魅せるプロなので、スケートの動きと芝居に全然違和感がない。逆に僕の方が大丈夫かなと(笑い)。みんなで同じ方向に向かっていく“気”をすごく感じて楽しいです」。 物語は、カケル(高橋)、トキオ(大野)、ユキ(村元哉中)という幼なじみ3人を中心にした友情物語。カケルとユキの死の事情を知ったトキオが自ら命を絶つと、銀河鉄道の旅が始まる。隣にはカケルの姿があり、2人でさまざまな銀河の住人と出会いながら、終着駅サウザンクロスを目指していく。 「自分のことより人のこと、という『自己犠牲』が今回のいちばんのテーマ。宮沢賢治さんの銀河鉄道をモチーフに、震災や多様性など、今の日本の世情にからめた物語になっています」 すれ違ってしまった3人の物語の中に、日本人らしい機微を感じるという。 「かすかな表情や行動で察する“わびさび”の感覚というか。だからこそすれ違ってしまったけれど、そういう和とか、美の中に面白さを感じるのが日本人なのかなって」 幻想的な世界観は、スケートとの相性も抜群だ。 「銀河鉄道のスピード感というのはスケートだから出せるものですよね。人の動きも、普通のフロアではあり得ないスピードで走ったり回転したり。現世じゃない感じも、逆にリアリティーがあるというか。特に女性の場合、靴が見えない衣装だとちょっと浮いているっぽいというか、幽霊みたいで幻想的だったりしますから」 これまでのシリーズでは、歌舞伎やフライングなど毎回新しい挑戦をしてきた。今回は、過去作の経験を踏まえ、歌にも本格的に取り組んでいる。目の前に課題や挑戦があると「やります、と言っちゃうタイプ」と笑う。 「『できますか』と言われると、『やります』って(笑い)。ダメだったらなくせばいいだけ。1回やってみないと分からないじゃないですか。プロの人たちの歌を聴いていると、自分の歌はマジでごめんなさいと思いますけど、5年前よりはレベルが上がっていると思います」 競技時代の緊張も、観客が期待するエンタメを作り上げる緊張も「同じ緊張感」と語る。 「もともとすごい緊張しいなので、出る前は足がガクガクするし。でも、ひとたびリンクに出てワーッて曲に乗って滑り始めると、本当に気持ちいいんですよ」 「氷艶」は「自分がスケートを軸に活動していきたいと思えた大事な作品」という。 「演劇界の方たちの力を借りて、スケート界の可能性を示したい。みんなで作り込んだ世界観を、早くお客さまに見ていただきたいです」 ■アイスダンスで気付き パワフルな活動を支える健康法を聞くと「我慢しないようになった」と語った。 「今まで、言葉や発言に気を使いすぎるところがあったのですが、嫌なものは嫌とか、こういう理由で嫌なんだけどやりますとか、きちんと人に伝えようと。ため込まないようにしたら気が楽になったし、それは相手のためにもなるんですよね。そう考えるようになって以来、ノンストレスで来てます」 きっかけは、20年に村元をパートナーにアイスダンスに転向した経験という。 「リフトひとつとっても、濃くコミュニケーションをとっていかないと命にかかわる。言ったつもりでも、それは『つもり』でしかない。本当に伝わっているかをこっちが判断しちゃダメだと。思っていることは7回でも8回でもちゃんと伝えることが大事なんだと学びました。気持ちや考えをちゃんと伝えて、『分かってくれない』という気持ちが減ってくると、ストレスも減るんだなって」 その気づきは「氷艶」でも生かされている。 「お芝居のけいこの時も、分からなければ『ごめんなさい、本当に理解できてないです』とちゃんと言う。逆にすごくいい空気になって、仲良くなれますね」 ■ゆずが音楽担当 アイスショー全編を彩る音楽を、ゆずが担当することも大きな話題のひとつだ。主題歌に書き下ろしの新曲を提供するほか、全21曲の劇中歌に「うたエール」「十字星」などゆずの楽曲が使用される。また、スペシャルアーティストとして全公演に出演する。 主題歌を聴いた高橋さんは「最後に希望を感じられるような壮大な曲。めちゃくちゃよかったです」と声を弾ませる。ゆずは学生時代から聴いている大好きなアーティストといい「曲がスケートにどう乗るかも想像できて、歌詞もこんなにはまるんだなって感動します。氷上のお芝居と、ゆずさんの楽曲。いいもの見たな、って思っていただけると思う。僕自身もわくわくしています」。 ◆「氷艶hyoen-十字星のキセキ-」 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をモチーフに、鉱物学者を夢見るカケル、そんなカケルを乗せるロケットを開発したいトキオ、世界的バレリーナを目指すユキの幼なじみの友情を描く。演出原案・宮本亞門氏。出演は高橋さん、大野拓朗、荒川静香、エハラマサヒロ、村元哉中ら。6月8日から11日まで、横浜アリーナで。 ◆高橋大輔(たかはし・だいすけ)1986年(昭61)3月16日、岡山県生まれ。7歳でスケートを始め、オリンピック(五輪)3大会に出場。10年バンクーバー五輪で銅メダル獲得。14年に引退発表したが、18年に競技復帰。20年、村元をパートナーにアイスダンスに転向。結成2年目の4大陸選手権で銀メダル獲得。22年、日本選手権優勝。23年5月に引退後、ショースケーターとして活躍中。