届けたい歌があった 小田和正さんがあの年神戸で、封印解いたオフコースの名曲 震災30年を語る
1995年4月3日。神戸市東灘区と灘区の境にある石屋川公園に、アーティストの小田和正さん(77)が現れた。 【写真】橋本環奈主演、NHK朝ドラ「おむすび」神戸でロケ「大切に演じたい」 2日前、大阪でコンサートがあった。2月の神戸公演は、阪神・淡路大震災で会場の神戸国際会館が全壊し、中止になっていた。 神戸へ行こう。車で大阪をたって、窓に映る景色を「黙って、ぼうぜんと見ていた」。公園での無料ライブ。被災者やボランティアらを前に3曲を披露し、小田さんは語りかけた。 「また神戸に戻ってこられたらと思います。その時、みんな元気な顔を見せてください。じゃあ、最後にもう1曲。君住む街へ」 〈そんなに自分を責めないで 過去はいつでも鮮やかなもの 死にたいくらい辛くても 都会の闇へ消えそうな時でも 激しくうねる海のように やがて君は乗り越えてゆくはず〉 透き通った声が、空気にしみ込むようだった。泣いている人がいる。幼子を抱いている人がいる。「こっちも胸が詰まって、途中で歌えなくなってしまった」 「君住む街へ」は88年の発表。当時「オフコース」の小田さんが作詞・作曲した。「みんなを励ます曲がほしいと思って一生懸命書いた曲」だという。「1人になってからは歌わないでいた。封印というと大げさだけど」。でも、あの日、封印を解いた。 「神戸の人たちに『君住む街へ』を歌いに行こう、歌うんだと思って。そしたらとっても喜んでくれた。いっぱい書いてきたけど、あの曲は特別」 4年後、再建した神戸国際会館でのコンサート。1曲目に選んだのは、「君住む街へ」だった。(中島摩子) 【おだ・かずまさ】1947年横浜市出身。東北大工学部卒業。早稲田大大学院修士課程修了。69年、オフコースを結成。「さよなら」「言葉にできない」などを発表。89年に解散後、ソロで活動。「ラブ・ストーリーは突然に」「キラキラ」「たしかなこと」などヒット曲多数。11月27日にアルバム「自己ベスト-3」を発売する。