1980年代にあった「ガンダムはSFか否か?」論争 感慨深い展覧会「日本の巨大ロボット群像」の星雲賞
【コラム風向計・塩田芳久】
SFの優れた作品や活動を顕彰する今年の「星雲賞」に、西日本新聞社などが主催して昨年9~11月に福岡市美術館で開いた展覧会「日本の巨大ロボット群像」が選ばれた。日本SF界で最も長い歴史を誇る賞で、歴代受賞作も小松左京氏の「日本沈没」(日本長編部門)、宮崎駿氏の「風の谷のナウシカ」(コミック部門)、映画「スター・ウォーズ」(メディア部門)などが並ぶ。快挙を喜びたいが、身内の話なので客観的に星雲賞のすごさを考えたい。 マジンガーZに関する展示 マジンガーZに関する展示 星雲賞の誕生は大阪万博が開かれた1970年。当時は早川書房のハヤカワSF文庫が刊行されたばかりで、SFの認知度は低かったが、ファンの熱意が形となった。米国の「ヒューゴー賞」に倣って最優秀賞をファン投票で選び、表彰するスタイルを初回から貫いている。 巨大ロボット展は「自由部門」での受賞。これまで「初音ミク」「iPS細胞」「ブラックホールの撮影」など幅広い作品や活動が選ばれている。 同展は「鉄人28号」「マジンガーZ」「機動戦士ガンダム」など巨大ロボのデザインやメカニズム、映像表現などを考証し、紹介した。巨大ロボに影響を与えたイラストレーターの加藤直之さんが所属する「スタジオぬえ」に光を当てた展示も、ファンの心に刺さったのだろう。 昭和からSFに親しむ者として今回の受賞は感慨深いものがある。なぜなら80年代にあった「ガンダムはSFか否か?」の論争を覚えているからだ。 ガンダムにサイエンス(S)の要素はあるか、アニメ制作者にSFマインドはあるか。SF作家からアニメファンまで巻き込み議論された。当時は未来の宇宙が舞台だから「SFだ」と単純に思っていたが、「大気圏や重力の影響など科学的考証がない」「制作陣にSFプロパーがいない」などという非SF派の勢力も強かった。 歴代の星雲賞リストを見ると「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」が2012年のコミック部門で受賞するなど、巨大ロボットがSFとして評価されていてうれしくなる。 星雲賞の運営に当たる日本SFファングループ連合会議の池田武事務局長は「SF界で『これがSFだ』という決めつけは減り、コスプレもSFという解釈もある」と語る。「ガンダム論争」も遠くになりにけり。だけどこの手の議論があったからこそSFの裾野は広がったのではないか。年1回の祭典「日本SF大会」の参加者数は70年代まで3桁だったが、80年代以降はおおむね千人超を堅持する。 星雲賞の授与式は7月6日、長野県である第62回日本SF大会開会式後に行われる。