<甲子園交流試合・2020センバツ32校>謙虚さ、向上心持って 選手見守り、支える 倉敷商・伊丹部長 /岡山
兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開かれている「2020年甲子園高校野球交流試合」に出場する倉敷商の伊丹健部長(40)は、自身が高校時代に経験した甲子園での夢を伝えるために教師になった。出場するはずだった今春のセンバツに加えて夏の選手権大会も新型コロナウイルスの影響で中止になり「頑張った3年生に何か残してやりたい」と切望していただけに、交流試合では「思い切り楽しんで甲子園のグラウンドを踏みしめてほしい」と全力サポートを誓っている。【松室花実】 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 1995年に倉敷商に入学し、3年時には主将を務めた。同級生は12人と例年に比べて少なく、当時監督を務めていた長谷川登さん(69)は「技術的に突出した選手は一人もおらず、チームワークで戦う代だった」と振り返る。 チームが一つになったきっかけは、責任感が強い当時の伊丹部長の行動だった。夏の岡山大会前の練習試合後、ミスをしたバッテリーに長谷川監督は「試合会場から走って帰ってこい」と怒鳴った。すると、伊丹部長は「2人だけの責任じゃない。みんなで走って帰ろう」と提案し、同級生全員で走って帰った。その姿を見た長谷川監督は「全員でそんな気持ちになってくれたおまえらを甲子園に連れて行けんかったらわしの責任じゃ」と選手の前で涙を流したという。 心を一つにして臨んだ岡山大会では、全員野球で勝ち上がって甲子園への切符をつかんだ。伊丹部長は試合後のインタビューに「下手くそだった自分たちがこんなに幸せになれて、周りの方に感謝の気持ちでいっぱいです」と感極まりながら答えたという。 憧れだった甲子園を経験し、「一生懸命やれば幸せな思いができることを伝えたい」と、指導者として高校野球に携わることを志した。2015年に商業科教諭として母校に赴任し、昨秋から部長に就任。報道対応や練習試合の調整などから、グラウンドではコーチとしての指導まであらゆる仕事を一手に引き受ける。 特に大事にしているのが打撃の指導。「打撃は同じことを言ってもみんなが打てるようになるわけではない。選手それぞれに合ったアドバイスをしてあげたい」と真剣な目つきでグラウンドを見渡し、一人一人の体つきや癖を把握している。 他にも、選手たちの成績や授業態度なども気にかけ、野球以外のところでもサポートをする。どんなときも大事にするのは「謙虚な姿勢」。自身が高校卒業後、「甲子園に出たという変なプライドを持ってしまい、大学では成長できなかった」からだという。同じ失敗をしてほしくないと、選手には「いつまでも自分が一番下手だと思って野球せえよ」と伝えている。 指導者として初めて臨む甲子園に向け、「勝つ理由があるとしたら、最後まで勝ちたいと強く思うこと。最後まで向上心を持って戦ってほしい」。憧れの舞台に挑む選手たちを熱い気持ちで後押しする。