レアル15回目の欧州王者に 苦境を跳ね返したクルトワの美技とサイドの攻防
【交代直後の決勝ゴール】 レアル・マドリードはその結果、左から攻め、右で守る展開となり、対峙するドルトムントも右で守り、左で攻める展開となった。 レアル・マドリードの右からの攻めが左に比べて落ちることも、マートセン、アデイェミの活躍を誘発した原因である。キツそうに見えたのはアデイェミと対峙する関係にあったレアル・マドリードの右SBダニエル・カルバハル(スペイン代表)だ。この選手がこの決勝戦の最高殊勲選手になろうとは、後半のある時まで想像だにしなかった。 レアル・マドリードは後半28分、連続してCKのチャンスを得る。この試合限りでの引退を表明しているトニ・クロース(ドイツ代表)が蹴った、その2度目の右足キックだった。欧州でも屈指の音量を誇るドルトムントサポーターのサイドで起きた出来事だったこともつけ加えておきたい。 ニアサイドでカルバハルが合わせると、ボールは弧を描くようにファーサイドへ吸い込まれていった。決勝ゴールが決まった瞬間である。 その直前、ドルトムントサポーターは湧いた。この試合をもってチームを離れるマルコ・ロイス(元ドイツ代表)が交代選手としてピッチに送り込まれたからだ。ベンチに下がったのはカルバハルが手を焼いていたアデイェミ。その決勝ゴールとこの交代劇は少なからず関係していたのではないか。ロイス投入で湧いたドルトムントサポーター席は一転、沈黙することになった。 ロイスは左ウイングの位置でカルバハルと対峙したというより、真ん中に寄って構えた。ドルトムントの左サイドはSBのマートセンがひとりでカバーする状況にあった。後半38分。そのマートセンがミスを犯す。ジュード・ベリンガム(イングランド代表)へプレゼントパスを送り、次の瞬間、ヴィニシウスのダメ押しゴールが生まれた。 サイドの攻防が見ものとなった決勝戦だった。しかし、それ以前に特筆すべきは、クルトワが前半に見せたビッグプレーの数々かもしれない。
レアル・マドリードはこれで優勝回数を15に伸ばした。1955-56シーズンがスタートなので、59シーズンで15回ということになる。確率は25%以上。 W杯では過去22大会中、5回優勝しているブラジルが200数カ国の頂点である。それに対してCLでのレアル・マドリードの場合、分母は何千とある。CLに名称が変更されてからの32シーズンで9度目の優勝。確率は約28%だ。少なくとも4シーズンに1度は優勝している計算になる。奇跡に近い成績、と言っていいだろう。
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki