人口減少を食い止めた「奇跡の村」 ワタミ「日経SDGs調査」外食最高峰
【経営者目線】 先月、熊本県南阿蘇村から講演会を依頼されて、現地を訪れた。2016年の熊本地震で大きな被害を受けた地域で「震災ミュージアム」にも足を運んだ。 南阿蘇村は、民間団体「人口戦略会議」のレポートで、10年前に「消滅可能性自治体」となっていた。ただ、今年4月、「自立持続可能性自治体」に評価が変わり、奇跡の復活を遂げた。 「運」も大きかった。隣の同県菊陽町に、半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が進出したことだ。10年間で11兆1920億円の経済効果を生むといわれる。ただ、TSMCの恩恵を受ける周辺自治体は他にもある。南阿蘇村は景色がよく、移住者が村での生活をSNSで発信していく中で、評判が評判を呼んだという。 さらに、吉良清一村長のリーダーシップが大きいと感じた。「運」を呼び込むような明るく前向きな方だった。地元名物の赤牛を一緒に食べながら、地元ワインなどを熱心に宣伝していた。村長は毎日、午前8時半から9時半に「出張村長室」と称して、役場の玄関に座り、村民や、職員に何でも話しかけてくれという取り組みもしていた。 SDGs(持続可能な開発目標)を掲げた総合計画も発想が、官僚的でなく、経営的で、よくできていた。村には、阿蘇山麓の草千里ヶ浜の水資源という大きな資産がある。農業も半導体工場も水が重要だ。だから、雨水をためて草原を守る環境政策に、とくに力を入れている。 さらに村では若者を呼び込むために、村長肝いりの手引書をつくったらしい。「隣の家には手土産を持っていきなさい」というアドバイスから、地域の草刈りなど、細かいことまで書いてあり、それが評判らしい。現在も400人ほどが移住の準備待ちをしているといっていた。 吉良村長には中小企業の社長のような印象を受けた。会社の資産を最大限活用して、物を売り、人を呼び込む、まさにセールスマンだ。自治体のトップとは政治家でなく経営者であるべきと改めて感じた。 村では「真のSDGs未来都市へ」というテーマで講演をした。ワタミは今年も「日経SDGs経営調査」で、外食企業最高峰の星3・5の評価を受けた。最近「SDGs疲れ」という言葉も耳にする。しかし、重要なのは、本当に「SDGs」をやりたいかどうかだ。南阿蘇村のケースでは、SDGsと損得をうまくくっつけている。先の草千里ヶ浜を守ることがSDGsになり、村の生命線を守ることにもつながる。