ダイハツ不正問題 ターニングポイントになった「ミライース」短期開発の成功体験
短期開発が標準になり、不正が激増
佐々木)典型的な平成時代のブラック労働パターンです。厳しいノルマを課せられ、死ぬような思いで社員が頑張ってノルマを達成すると、経営層は「やればできるではないか」と間違った判断をしてしまう。そして「次からこれが標準でいいだろう」となる。やっている方は「今回だけ必死に頑張ってノルマを達成すれば、次は楽になるだろう」と思って頑張ったら、達成した瞬間にそれが標準化されてしまうのです。 飯田)それがボトムの基準になる。 佐々木)その繰り返しでどんどん疲弊していき、結果的に「不正しないと数字が残せない」という形になってしまった。不正の内容も、「本当にそんなことまでやるのか」と言うくらい酷いものです。例えばエアバッグの試験では、衝突したショックで衝撃を感知し、エアバッグが開く。当たり前の話なのですが、それをクリアできないので、衝突する時間に合わせてタイマーでエアバッグが開く形にしていたそうです。そんなレベルの不正をやっていたのかと思います。 飯田)酷いですね。 佐々木)日本が誇る自動車産業の技術者が、プライドも何もかも捨てて、そんなことをやらなければならなかった。技術者自身もそれだけ追い込まれていたのですよね。これは技術者1人ひとりの問題というより、そうやって追い込んでいった20世紀終わりから21世紀にかけての異様な労働環境に問題があると感じます。
「いかに会社の殻を壊すか、外部との風通しをよくするか」が企業に求められている
飯田)国土交通省の是正命令では「企業体質に問題がある」と指摘されています。 佐々木)自動車メーカーに限らず、外の世界を知らずに閉鎖的な空間になると、みんなおかしくなっていくわけです。今回の能登半島地震でも、いろいろと文句を言っている人たちがいるではないですか。 飯田)国の対応を批判している人が。 佐々木)政府の初動が遅いとかね。外部から見ると、「政府はきちんと対応しているし、自衛隊も動いているのだからいいではないか」と思うのですが、狭い世界のなかだけで騒いでいる。そして、「そうだ、そうだ」と言われると、自分が言っていることが正しいと思えてしまう。これをインターネット用語で「エコーチェンバー」と言いますが、島宇宙の狭い空間のなかではこういう現象が必ず起きるのです。やはり閉鎖的な空間はよくないですね。 飯田)閉鎖的な空間は。 佐々木)会社も同じです。転職が多い会社であれば、「この会社の常識は外の世界と違いますよ」と指摘する人が現れる。そうすれば「そうかな」とみんなが気付いて、会社の固定的な社風が壊れていく可能性もあります。しかし、転職がない終身雇用の業界の場合、その世界のなかで異様な常識だけが当たり前になってしまう。80~90年代に談合があったではないですか。 飯田)ありましたね。 佐々木)あれなどはまさにそうです。明らかに法律違反ですが、ゼネコン世界のなかだけで「当たり前」になってしまい、誰も疑問に思わない。 飯田)むしろ一抜けしようとすると、「周りに迷惑がかかるだろう」というような雰囲気になる。 佐々木)「いかに会社の殻を壊すか、外部との風通しをよくするか」が求められていると思います。