国内に透析患者は約35万人! 「腹膜透析と血液透析の違い」を知っていますか? 腹膜透析が普及しない理由
腎臓の病気が進行して人工透析が必要になったら血液透析(HD)と腹膜透析(PD)はどちらがいい?
編集部: 血液透析と腹膜透析ではどちらが良いですか? 青柳先生: どちらもそれぞれメリットとデメリットがあります。予後はどちらでも変わりがないという報告が多いため、医学的な条件だけではなくライフスタイルや年齢、性格、趣味などを考慮してご家族や医療従事者と話し合いをして治療方法を選ぶと良いでしょう。 編集部: 腹膜透析は、通院の必要がないというのは良いですね。 青柳先生: そうですね。 といっても、腹膜透析でも全く通院の必要がないわけではありません。腎臓の病気であることには変わりないので、1ヶ月に1回は医師の診察を受ける必要があります。 また、通院しない分、自己管理が重要となってきます。 編集部: 血液透析と腹膜透析を併用することはできないのですか? 青柳先生: 併用することもあります。腹膜透析を数年行うと、腹膜の劣化や残腎機能の低下により徐々に透析不足になるため、透析不足分を血液透析で補う必要があります。 併用する場合、1週間に腹膜透析を5日と血液透析を1日行い、もう1日は何も行わない休息日とすることが多いです。2023年時点で、腹膜透析を受けている患者さんのうち2割は血液透析を併用しています。
腎臓病患者の人工透析はほとんどが血液透析 血液透析と比べて腹膜透析が日本で普及しない理由は?
編集部: どちらの透析をしている人が多いのですか? 青柳先生: 血液透析の方が圧倒的に多いですね。先ほど、国内に35万人ほどの透析患者がいるとお伝えしましたが、そのうち腹膜透析をされている方は約1万人(2.8%)です。ちなみにアメリカやカナダ、ヨーロッパでは10~20%の患者さんが腹膜透析を行っています。 編集部: なぜ、そんなに少ないのですか? 青柳先生: 理由としては、腹膜の劣化の問題や透析患者さんの高齢化、血液透析の進歩などが考えられます。血液透析のフィルターは使い捨てで毎回交換しますが、腹膜透析のフィルターはご自身の腹膜ですので、交換できず徐々に傷んでしまいます。腹膜が劣化して腸閉塞になって食事を摂取できなくなることがあり、腎臓専門医の間でも一時腹膜透析を積極的にすすめることが少なくなりました。 編集部: そのような背景があったのですね。 青柳先生: 1990年頃から被嚢性腹膜硬化症(腹膜が硬くなって腸が動かなくなり死に至る可能性がある病気)が多発したこともあり、腹膜透析を選択しても被嚢性腹膜硬化症を避けるために5年以内に血液透析に変更する方が増えました。一方、血液透析は30年以上問題なく続けている方が多くいます。2000年以降になると、腹膜透析液が酸性透析液からお腹に優しい中性透析液に変更になり、被嚢性腹膜硬化症の発症率は減少しましたが、同時に腎臓専門医の間でも腹膜透析に馴染みがある医師が減少し、患者さんに腹膜透析をすすめることが少なくなりました。 編集部: ここ数十年で腹膜透析を選ぶ人も指導する医師も減ったということですね。 青柳先生: 加えて、最近は透析を始める平均年齢が71歳と高齢化も進み、腹膜透析の操作方法を覚えるのが困難な方が増加しました。患者さん本人が腹膜透析の操作方法を覚えられない場合はご家族に覚えてもらう必要がありますが、ご家族も高齢化している現状があります。 編集部: では、腹膜透析のメリットには何がありますか? 青柳先生: 腹膜透析のメリットは、通院回数が少なく仕事と両立しやすい点です。ですが、透析開始の平均年齢である71歳で就業している方は少なく、週3回血液透析のために通院しても問題ない方が多いです。かつ、腹膜透析単独だけでは透析不足になってしまい、結果として血液透析に移行することが多いので「どうせ数年で血液透析に移行するなら最初から血液透析を選択します」という患者さんも多くいます。 何より、日本の血液透析の成績は諸外国と比較して非常に良好です。腹膜透析と従来の血液透析は生命予後が同等と言われておりますが、最新の透析方法である「オンラインHDF(血液ろ過透析)」であれば、腹膜透析よりも生命予後が優れている可能性があり、あえて腹膜透析を選ぶ必要がないという事情もあるのです。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 青柳先生: 食事療法や内服治療で腎機能の悪化を防ぎ、透析の導入をなるべく先延ばしすることはもちろん、いざ透析が必要になった時にスムーズに透析を始める準備をしておくことが大事です。また、医師は治療方法を選ぶ時に「生命予後が優れているかどうか」を重視しがちですが、患者さんからすると「ライフスタイルに合った治療方法かどうか」も重要ですよね。血液透析と腹膜透析のメリットとデメリットをよく理解して、分からないことがあれば血液透析と腹膜透析の両方に精通した腎臓専門医とよく相談し、ご家族とも共同して時間をかけて治療方法を決めていきましょう。