Tommy february6の再評価を考察、TikTokを中心に国内外で注目されている理由
2024年、Tommy february6の再評価が海外を中心に起こり、国内外でその熱が高まっている。 the brilliant greenの川瀬智子が2001年に立ち上げたソロプロジェクト、Tommy february6。the brilliant green自身、J-POPの最前線でオルタナティブなバンドサウンドを鳴らし、1998年にリリースした3rdシングル「There will be love there -愛のある場所-」がダブル・プラチナを超えるヒットを記録するなど高い知名度を誇っていたが、本プロジェクトはスタッフからソロ活動も提案されたことから始まったという。当時は乗り気ではなかったが、セルフプロデュースで好きにしていいと言われて進めていくうちに好奇心が勝ったと、本人は過去のインタビューで語っている。 そのコンセプトは、トレードマークといえるメガネをかけ、ガーリーなファッションを身にまとい、川瀬の内面をキャラクター化したもの。初シングル「EVERYDAY AT THE BUS STOP」のMVでチアリーダーたちの前で歌う姿はオルタナティブで個性が強く、当時もインパクトが大きかったが、それ以降もMV作品ではチアリーダーが登場し、Tommy february6の世界観を表現する上で、重要な要素となっている。 楽曲は、ユーロビートやニューウェイヴをはじめとした80年代洋楽ポップを踏襲しながら、Tommy february6らしく昇華。リック・アストリーの大ヒット曲「Never Gonna Give You Up」「Together Forever」のようなディスコポップ調のサウンドを取り入れ、レトロフューチャーな楽曲を確立し、2000年代のJ-POPシーンの中でもどこかサブカルチャー的で新鮮なインパクトを与えた。 ちなみに、2003年5月には、Tommy february6ライブイベントのアンコールで突然の新キャラクター「Tommy heavenly6」が発表。もともとTommy february6が「いい子のフリをしているけど、心の中には闇を抱えているキャラ」だったというが、ダークサイドを表現したキャラクターとしてTommy heavenly6が誕生することになる。 そんなTommy february6が、デビューから20年以上経った今、海外を中心に再評価を得ている。中でも、「Lonely in gorgeous」の盛り上がりは高く、TikTokで検索をすると、同楽曲を仕様した動画が数多くヒットする。その多くが20代を中心とした海外女性で、楽曲をバックに自分の表情を写しているものが多い。ヴォーカル入りトラックだけでなく、インストヴァージョンの楽曲再生回数が多いのも興味深いところだ。 そもそもこの楽曲は、Tommy february6の8thシングルとして2005年11月に発表されたもので、矢沢あい原作のアニメ「Paradise Kiss」のオープニングテーマにもなっている。TikTokでは、「Paradise Kiss」のキャラクターをモチーフに前髪を短くした女性の姿も多く、アニメを媒介にこの楽曲にたどり着いたリスナーも少なくないことが伺える。2024年の東京、特に渋谷や原宿を歩いていると外国人観光客が圧倒的に多く、日本カルチャーに対する興味関心もこれまで以上に高い。 とはいえ、20年近く前の楽曲がここまでヒットするのには別の理由もあるだろう。その大きな理由として挙げられるは、「Y2K」と呼ばれる2000年代初期のカルチャーやファッションが若者たちのトレンドになっていることだ。ミュージシャンをはじめ、街を観てもY2Kファッションが数年前から多く観られるようになった。Tommy february6のファッションは、まさにY2Kを象徴するようなビジュアルで、そこも注目の大きな要素になっている。2000年代もすでに20年前のことであり、いまの若者にとっては新鮮に映るのだろう。 改めて考えてみるとTommy february6は2000年代に誕生したアーティストでありながら、今の時代のように、好きなものを好きと全面に押し出して活動していたところが新しかった。当時、オタクカルチャーはいまほど一般的ではなく、あまり表に出して言える雰囲気でもなかった。例を挙げれば、ネットからブームが起こった「電車男」のドラマが20005年に放送されていたことを考えると、わかりやすいだろう。 そんな2000年代のカルチャーと、ファッションもサブカルチャー的なものも好きなものは好き!と表現に盛り込んだTommy february6は、ある種、未来を先取りしていたとも言える。そこに時代が追いつき、いま再評価されているのはまったくおかしなことではない。2024年の「コーチェラ・フェスティバル」で、女性ラッパーとして初のヘッドライナーを務めたドージャ・キャットが、XでTommy heavenly6の曲「Wait till I Can Dream」の YouTube動画をシェアしたことはその証左とも言えるだろう。 Tommy february6というアーティストの再評価が、この先どのような新しいカルチャーを生み出していくのか。そうした文化の連鎖も含めて、これからの動向も楽しみだ。 <配信情報> Tommy february6 「♥Lonely in Gorgeous♥」 配信中
Hiroo Nishizawa