【毎日書評】人間関係のストレスから自分を守る最適解は?希代の哲人・中村天風さんならこう考える
『またうっかり、自分を後回しにするところだった』(中村天風 著、アスコム)の主役である中村天風さんについて、本書の冒頭にはこのような解説があります。 中村天風は、稲盛和夫さんや松下幸之助さんなど、 名だたる経営者に影響を与えた人物です。 彼は、軍事スパイや通訳として活躍していた30歳のとき、 当時「不治の病」といわれた肺結核にかかりました。 自分を見失いそうになっていた彼を救ったのが、 インドの山奥、ヨガ大聖者のもとでつかんだ教えです。 病を克服し92歳で亡くなるまで、 それを踏まえた人生の教訓を人々に伝え続けました。(7ページより) そんな天風さんは、こうも語っていたそう。 人が何と言おうと、 自分を正しく守るのは 自分である以上は、 自分をしっかり守りなさい。(4ページより) 自分は世界にたったひとりの存在であり、その尊い命を守れるのは自分だけ。そのため決して後回しにせず、自分のことをまず第一に考えるべきだということです。 たとえば世間が「いい」というものであっても、自分が「いい」と思えないのなら、周囲の反応など気にする必要はないのです。なぜなら、「自分は自分のままでいい」のだから。 技術の発展した現代においては、不便さに悩まされることは少なくなりました。しかし便利になりすぎたぶん、自分の考えを揺るがすような情報に取り囲まれながら生きるしかなくなってしまったのも事実だといえそうです。 でも、そんななかで自分を優先して生きていくためには、天風さんの話が役立ってくれるのではないかーー。本書は、そうした考え方に基づいてまとめられているわけです。 きょうはそのなかから、第2章「人間関係のストレスから自分を守る」に焦点を当ててみましょう。
怒りや恐れは、いっぺんきりの貴重な人生をスポイルしてしまう
現在ただいま、時間というものはスピードフルに回っているんです。怒ることがあるから怒るんだ、悲しいことがあるから悲しいんだというようなことを言ってたんじゃ、人生に極楽はこないんですよ。 さんざん怒った、さんざん泣いた、さんざんおっかながった後で気が落ち着いてから、「あの時、なにもあんなに怒ることはなかった」「今から考えてみると、それほど悲しいことじゃなかった」なんて思うようなことも、ちょいちょいはないかもしれないけれども一年にいっぺんぐらいありゃしませんか。 怒りや恐れや悲しみに虐げられない心構えが必要じゃないんですか。何物にもかえがたい、いっぺんきりの貴重な人生をスポイルしてしまう。そういうことが、どれだけあるかわからないということを、あなた方、感じませんか?(66ページより) 人間にも動物にも本能が備わっていますが、両者には大きな違いがあります。本能のまま生きるのが動物で、本能から生まれる感情をコントロールし、自らの力で理想的な生き方を追求できるのが人間だということ。 ところが世の中には、感情に振り回されたり、支配されてしまったりする人もいるもの。そして、それが人生を台なしにしてしまうことも考えられるわけです。 しかし、たとえばこちらの事情をわかってくれない上司などに失礼な発言をされたとき、強いことばで抗議したとしたらどうなるでしょう? もちろん、一時的にはすっきりするかもしれません。が、時間が経てば後悔する可能性も大いにあり得ます。 大切なのは、そんなときにも冷静さを保ち、やさしいことばで思いを口にすること。そうすれば、たとえ真意が相手に伝わらなくても、深く後悔することはないに違いないからです。怒ったり悲しんだりするのは簡単ですが、いちいちマイナスの感情をあらわにしていたら、逆に損してしまうのです。(64ページより)