キャロライン・ポラチェック、“魅せる”ステージの追求 パワーに圧倒された初の単独来日公演
デジタルとフィジカルの境界を緩やかに溶かしてしまうパフォーマンス
ポラチェックのステージングと言えば、歌いながら手振りを使ったちょっとしたダンスをするのが視覚的にも面白い点だが、その「I Believe」では先ほどのTrue Blueがベースを置いてポラチェックと共に腕をヒラヒラと動かすようにシンクロして踊っていたのが印象的だった。これ以外にも「Bunny Is A Rider」では馬に乗って縄を回すようなカウボーイ風の動きや“うさぎポーズ”、後半のハイライトとなった「Billions」の冒頭では空中で何かを掴んで客席にバラまくというような動き、「Caroline Shut Up」のキメでのしなやかな腕さばき……等々も特に記憶に残った。ただ、部分的にこうした決まった手振りはあれどそれ以外はその場に合わせて自由に動いているようにも見えたが、そのゆるさも逆に作用したのか、どうしても彼女の動きを目で追ってしまっていた。 極め付けは「So Hot You're Hurting My Feelings」での、MVにも登場する汗を拭くような手振り。「So Hot You're Hurting My Feelings」はTikTokでバイラルヒットした曲だが、彼女の楽曲自体が持つ思わずゆるい手振りをつけたくなるようなこの独特の流動性は、確かにTikTok的な感性にも通じるようにも感じられ、そのようにデジタルとフィジカルの境界を緩やかに溶かしてしまうところが、ポラチェックの音楽やパフォーマンスの興味深いポイントなのだと今回のアクトを見て改めて気づかされた。 洗練されたステージを彼女は追求しているに違いない。とはいえ、ダンスありきで構成されているポップスターのそれとは少し違う。インディーポップのシンガーソングライターが、身体表現、ビジュアル表現というものを追求したのなら一体どんなものになり得るのか、ポラチェックのステージはその実験の過程と結果、試行錯誤そのもののようにも思える。それを現在進行形で見ることができたことはとても幸運であったし、これからさらにどう変化、進化していくのかからも目が離せない。叶うならば近い将来にまた、この目でそれを目撃できることを願って。
井草七海