欧米でのモラハラへの取り組み状況
モラルハラスメントは、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した造語であり、1998年にマリー氏が『モラルハラスメント』という著書を出版したことで、その考え方が広まりました。 1990年代ごろから欧米各国では職場内でのいじめが顕在化し問題視され始め、さまざまな法規制がなされるようになりました。各国のモラハラへの取り組み状況を解説します。
フランス
ハラスメントへの取り組みの発端であるフランスでは、前述の書籍『モラルハラスメント』出版により、今まで職場で受けていたいじめ行為に名前が付いたことで、声を上げる人が多くなり、社会的な論争になりました。それをきっかけに1999年には国会に法案が提出され、2002年には労使関係現代化法が制定されています。その内容は当時としては先進的で、労働者の権利と尊厳に損害をもたらし、肉体的・精神的な健康を失わせるようなハラスメントを禁じました。 ■広範な義務・罰則 具体的には職場のモラハラに対して、2年間の禁固刑または3万ユーロ(日本円で約380万円、2021年1月時点)の罰金を定めて厳しい姿勢を示し、事業主にもハラスメントを予防するためにあらゆる措置をとる義務を課しています。 また労働組合には、職場でモラハラなどを目撃したり、従業員から情報を提供されたりしたら、事業主にすぐに知らせる義務を負わせるなど、関係者の役割についても規定されているのも特徴です。 同時に証言者の保護や不利益な扱いにも言及。モラハラについて証言したり口外したりしたことによる、制裁・解雇・配置転換・降格・契約更新などの差別的扱いを禁じ、解雇や労働契約の解除については無効としています。 被害者の賠償についても、モラハラ被害に対する賠償と、事業主がモラハラを防げなかったことに対する補償の両方を受けることができます(ただし被害を証明する必要があります)。
ILO 国際労働機関
2019年、国際労働機関(ILO)は職場でのハラスメントや暴力を全面的に禁止する初めての国際条約「職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する旨の国際条約(暴力とハラスメント条約)」を採択しました。セクハラや性的暴力を被害者が告発する「#MeToo」運動が世界的に広がりを見せていた中、暴力やハラスメントは「身体的、心理的、性的、経済的被害を引き起こしかねない」と定義し、法的に禁止しました。 正規の社員だけでなく、インターンやボランティアなども対象とし、職場だけでなく出張先や通勤中も含んでいます。実際にハラスメントが起こるのは社内とは限りません。加害者が被害者の所属している部署以外の人間であることもあり、条約はそうした実状を想定した内容となっています。