2024年米国大統領選挙とイスラエル支援
ハリス副大統領が橋渡しの役割を果たせるか
イスラエルのガザでの攻撃については、イスラエルを支持する米国に対する国際世論の批判は高まっている。しかしバイデン政権は、こうした国際世論よりも、2024年の大統領選挙を視野に入れて、親イスラエル的な国内世論を重視してきたとの印象が強い。 しかし民主党支持者の中でもイスラエルに対する批判が高まる中、バイデン政権はそうした国内世論の変化にも柔軟な対応を迫られるようになっている。民主党内で強まる親イスラエルの強硬派とバイデン政権の親イスラエル政策に批判的なグループの間の対立の橋渡しの役割が期待され始めているのは、今まで存在感が薄かったハリス副大統領だという。 ハリス副大統領は、ホワイトハウスがパレスチナ人へのより強い共感を明確に表明し、紛争後のガザをどうするかに関する計画に焦点を合わせるよう求めている。また同氏は「イスラエルは罪のない民間人を守るために、より多くのことをしなければならない」とも述べている。 ハリス副大統領は、ユダヤ人社会とイスラム社会の両方とつながりがあると言える。夫はユダヤ人の弁護士だ。一方でハリス副大統領には、南アジアのコミュニティ内にイスラム教徒の支持者もいる。彼らは移民の娘としての同氏の生い立ちに共感を持っているとされる。
大統領選挙に向けてイスラエル政策の軌道修正はあるか
ハリス副大統領は、「あまりにも多くの罪のないパレスチナ人が殺されている」として、イスラエルの軍事攻撃を強く批判している。これは、バイデン大統領のイスラエル寄りで、また完全停戦への支持に消極的な姿勢に対する批判的なコメントとも理解でき、政権内で意見の相違が生じているとの見方もある。 他方で、イスラエルに対する批判的なハリス副大統領のコメントは、過半が親イスラエルであった民主党支持者以外も含めた米国内の世論の変化や現状を政権が把握し、今後の政策修正に生かすための「観測気球」との見方もある。 ウォールストリートジャーナル紙が9日に発表した最新世論調査(11月29日~12月4日)の結果によると、大統領選挙でトランプ氏とバイデン氏が闘う場合、トランプ氏に投票するとの回答が47%とバイデン氏の43%を上回った。イスラエル問題に足元を掬われて、バイデン大統領がトランプ前大統領の再選を許す可能性もあり得る状況だ。 イスラエル問題を巡って、民主党内での対立を緩和するとともに、大統領選の本選に向けてバイデン大統領の再選に道を開くために、対イスラエル政策を必要に応じて軌道修正していけるかどうか、ハリス副大統領の手腕が問われているのではないか。そして、バイデン政権が対イスラエル政策の軌道修正をして、停戦に傾くことがない限り、イスラエルによるガザ地区への攻撃姿勢が修正されることはないだろう。 (参考資料) "Kamala Harris Works to Bridge Democratic Divide Over Israel-Hamas War(ガザ巡る米民主党の分断、ハリス氏が架け橋に)", Wall Street Journal, December 7, 2023 「対イスラエル 共和に温度差 米大統領選候補 トランプ氏 支援触れず」、2023年11月10日、東京読売新聞 「なぜアメリカとイスラエルは"特別な関係"か」、2023年10月30日、NHK 解説委員室 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英