「なぜ」問い続けた9年 納得のいく理由が分からないまま、喪失感と闘う 妻子3人を失った男性 情報発信の必要性を訴え
加藤さんは「事件が起きてからでは遅い」と、市民に対する犯罪予防のきっかけとなる細かい情報発信の必要性を語る。「今は自分の心に余裕がなく難しいが、将来的に自分が話すことで変わることがあれば」と、事件を伝えていく意向を示した。 ■事件教訓、「熊谷モデル」全県へ 県警は不審者や重要凶悪事件の発生などを地域住民に周知して防犯対策を促すため、情報発信ツール「犯罪情報官NEWS」を2006年2月から運用している。メールマガジンに加え、X(旧ツイッター)やインスタグラムなどの交流サイト(SNS)でも広く発信を行い、Xの公式アカウントは15日現在で11万人を超えるフォロワーを持つ。 県警によると、当初の発信基準は子どもや女性を狙った犯罪、特殊詐欺などの身近な犯罪の情報で、同年2~12月末までの期間で948件の発信を行った。 熊谷6人殺害事件を受け、3カ月後の15年12月に熊谷署と熊谷市、同市自治会連合会の3者による「犯罪情報の住民提供等に関する協定」が締結され、通り魔殺人や連続発生の恐れがある強盗などの重要犯罪の防犯情報の発信を開始。翌16年6月までに県内全市町村と管轄の警察署が同様の協定を締結した。この取り組みは「熊谷モデル」と呼ばれるようになり、事件から得た教訓として積極的な情報発信制度が確立された。
協定締結後の16年1年間の情報発信件数は前年から約3800件増の7985件で、2倍近く大幅に増加。17年4月には、夜間や休日に発生した事件などについても即時の情報発信を始めるなど、年々発信の精度を高めている。 【熊谷6人殺害事件】 2015年9月14~16日、熊谷市内で小学生姉妹を含む6人が相次いで殺害される事件が発生。13日に熊谷署から走り去ったペルー国籍の男(39)が殺人などの容疑で逮捕、起訴された。一審さいたま地裁は被告の完全責任能力を認定し死刑判決。二審東京高裁は責任能力は限定的として無期懲役を言い渡した。検察側は上告を断念。最高裁が20年9月、被告側の上告を棄却し、無期懲役判決が確定した。