【田村藤夫】DeNA上甲凌大捕手のフレーミングにトライする姿に感じること
【184】<ファームリポート:DeNA0-3日本ハム>◇22日◇横須賀 DeNAの上甲凌大捕手(23=IL・愛媛マンダリンパイレーツ)のキャッチングで、フレーミングにトライしようと感じる場面があった。若い捕手が新しい技術をものにしようとする姿から、いくつか気づいた点を解説したい。 ◇ ◇ ◇ 22年の育成1位で入団し、ファームでの結果を受け、昨夏に支配下選手になっている。成長しようという意欲が感じられる捕手だ。イニング間の練習で、9イニングすべてで試合とまったく同じ全力で正確にスローイングしていた。 力を抜くような雰囲気は感じられない。さらに投げ終わった後に、自分の左足のステップ跡を確認していた。私もコーチ時代からこうした部分は気を付けて観察してきたが、ここまで必死になっている捕手はいなかったと思う。 できれば盗塁の場面でどこまでのスローイングをするのか確かめたかったが、試合では盗塁がなく、いずれチャンスがあれば是非しっかり確認したいと感じた。ただし、こうした姿勢を失わず継続していけば、さらに技術は上達するだろう。 捕手の基本スキルとして、スローイングは非常に重要だ。それを支える1つとしてステップは肝になる。どんなステップの時にどういう送球になるのか、毎回チェックしていれば、うまくいかなくなった時に、その地道な作業が自分を助けてくれる。 そうした部分をきっかけに、キャッチングを含めて注目して見ていたところ、気が付いた場面があった。中盤の守備でのことだった。左打者のアウトコース寄りの低めの真っすぐに対し、上甲はアウトコースに体を寄せ、さらに右膝を折って構えた。結果はボールだった。 私は上甲がフレーミングをやってみようとしたのだと理解した。捕手をしていれば、左膝を折って構えることは良くあることだ。しかし、右膝を折る理由はフレーミングしか考えられない。右膝を折ることで、捕手の右半分に空間を作り、主に右打者のアウトコース寄り低めのボールを下から上へ取りやすくするため。私はそう解釈した。 チャンスがあれば、上甲本人に確認してみたいが、仮にフレーミングにトライしたのなら、気になる点があった。このアウトコース寄りの低めのボールは、上甲が予期した低さよりもさらに低かったのだろう。結果としてフレーミングの動きはなく、ボール球として終わったが、ミットは下がっていた。 この試合で、上甲は低めのボールに対してミットが負けているなと感じる場面が何回かあった。ミットが下がるのは、主に低めのボールに対して負けてしまうことが要因としてある。ミットが下がると、球審から高さが見づらくなり、可能性としてボールと判定されることが多くなる。 一般的に、アウトローというのはバッテリーにとって非常に重要なボールになる。勝負球などとして、ギリギリを狙うのがアウトローで、コースもそして高さもストライクゾーンを目いっぱいに攻める。ここでストライクを取れるのと、ボールと判定されるのでは大違いだ。1アウトに直結するボールと言っても過言ではない。 それがミットが下がってしまえば、ギリギリを攻めた投手にも、もちろんそこを意図した捕手にとってもダメージが残る。低めいっぱいを技術によってストライク判定につなげるか、それは捕手の腕の見せどころと言える。 私は現役時代を通じて、来たボールを止めるという感覚を貫いた。ことさらに下から上にミットを動かしてストライク判定につなげるという意識はなかった。ただし、ミットは下げない、下から上へ、下から上へ、という意識は常に持っていた。 そうした心の準備は片時も忘れず、体に染み込むまでやって、初めて低めのボールをしっかり止め、ストライクを取れるようにキャッチングを磨いてきた。今はフレーミングを練習する球団も捕手も時折見受ける。 この日の上甲も、そうした狙いを持って試合の中で試そうとしたのではないか。図らずも低めのボールが低すぎて、ミットを下から上へ動かすところまでいかなかったのだろうが、そういう技術を会得しようと思うならば、1つだけ指摘したい。 このケースは、左打者のアウトコース寄り低め真っすぐだったが、右打者のアウトコース寄りの低め真っすぐでもミットが下がっていた。その時は左膝を折っていたが、そこまでミットを下げないように気を配っていたようには見えなかった。 低めのボールに対しては、ミットを下から、下からと意識して動かさないと、ボールの威力に負けてしまう。フレーミングにトライしようと思うならば、左右打者に限らず、常にミットを下から下からと動かすことが大切で、特定のボールだけにフレーミングをあてはめようとしても、なかなかうまくいかない。 ミットの動かし方は、外から内へ、下から上へ、これが原則となる。その場で、来たボールを止めようとするだけでは、球威に負けてしまう可能性が高い。フレーミングに限らず、低めのボールをしっかりストライクと判定されるために磨くのがキャッチングである以上、そこはさらに意識を高く取り組んでほしい。 また、走者二塁で低めのカーブがワンバウンドし、上甲はミットだけで取りにいった場面があった。幸いにも止められたが、ここはしっかり体を動かして止めに行くべき状況だった。わずかでもそらして三塁に進まれては、苦しくなるのはバッテリーにほかならない。 スローイングでステップの確認を怠らなかった緻密さで、低めのキャッチングにも、その研究熱心さで臨んでほしい。やればやるだけ上達する捕手だと、私は試合を通じて感じた。(日刊スポーツ評論家)