【検証・鹿児島県警巡査部長盗撮】警官関与の疑いがあれば「本部長指揮」のはずが当該所轄事案 捜査中断…異例続きの捜査指揮に、現職・OB捜査員からも「常識では考えられない」といぶかしむ声
相次ぐ警察官らの不祥事を巡り、鹿児島県警は捜査に区切りがついたとして6月21日に会見を開いた。4時間にわたり経緯を説明したが、南日本新聞には「不自然な点が多い」との声が寄せられる。前幹部が「本部長が隠蔽(いんぺい)しようとした」と訴える枕崎署員の盗撮事件について、会見内容や取材を基に整理、検証する。 【写真】鹿児島県警巡査部長盗撮容疑事件の事案認知から逮捕までの経緯
6月5日、前生活安全部長の被告(60)=国家公務員法(守秘義務)違反罪で起訴=の「告発」に衝撃が走った。裁判手続きの公開の法廷で、枕崎署の巡査部長=依願退職=がトイレで女性を盗撮したとされる事件を「野川明輝本部長が隠蔽しようとした」と主張した。 県警によると、事件は昨年12月15日に発生。同19日に被害者から署に相談があり把握した。前署長は同22日、県警本部の前首席監察官に「現場付近の防犯カメラに不審な車両が映っている。署の公用車と同じ車種で、署員が犯人の可能性がある」と電話した。前首席監察官から報告を受けた野川本部長は「被害者が犯人を目撃しておらず証拠が乏しい。署で捜査を尽くせ」などと指示したという。 「常識では考えられない判断」といぶかしむのは現職警察官や元捜査幹部だ。「通常、容疑者と顔見知りであれば捜査から外される。署員同士ならなおさらだ」と指摘。そもそも警察官の関与が疑われる場合は「本部長指揮事件」と呼ばれ、県警本部主導に切り替えるのが通例だと明かす。
野川本部長の方針を、捜査担当者ではない前首席監察官を通じて伝えた事実も「不思議だ」との声が上がる。中野誠刑事部長も会見で「本来は本部の事件主管課から署長や刑事課に連絡を入れ、指示しないといけない」などと、変則的な対応だったと説明した。 県警は野川本部長の捜査方針を署に伝達した際「客観的証拠がないので捜査中止」との誤解が生じ、2日ほど中断した事実も明らかにした。前署長が3日後に「捜査中止という本部長指揮がほしい」と前首席監察官に相談したことで発覚した。 しかし、県警OBは「署員が疑われる捜査の中止はそれだけで一大事だ。数日たってから指揮を伺うなんて、そんなとぼけた話があるのか」と疑問視する。 被告はこれまでに「(捜査の進め方を決める書類である)事件指揮簿に野川本部長が押印しなかった」と訴え、隠蔽の意図があったと主張。県警側は「本部長指揮簿そのものが当時作られていない」として、真っ向から否定している。
南日本新聞は6月中旬、一連の事件指揮簿について公文書開示請求をした。県警側は7月1日付で「開示・不開示の判断に相当の時間を要する」として、開示期限を最長8月16日までとする延長通知を出した。 〈連載「検証 枕崎盗撮捜査」㊤から〉
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