アメリカとウクライナの足並みがそろわない理由
「部分的容認論」と「反攻延期論」という2つの動きを見てきたが、そこには通底しているものがある。バイデン政権は、目の前の事態に対処するための戦術的理論は打ち出すが、結局この侵攻をどう終わらせたいのか、という戦略的大目標がないということだ。 ウクライナの場合、その戦略的大目標は明確だ。戦場でロシアに勝ち、それによってロシアを占領地から追い出し、和平交渉に優位な立場で臨むことだ。すべての戦術はこの大戦略実現のために組み立てられる。
バイデン政権の場合、今回の部分的攻撃容認は、ウクライナで起きた人道危機からウクライナを救うための緊急措置だ。その先、ウクライナを戦場で勝たせるつもりなのかも含め、大目標は明らかにされていない。 この大目標をゼレンスキー政権と共有していないからこそ、さまざまな問題で対立が起こるのだ。ウクライナ側からすれば、バイデン大統領は早く明確に表明すべきだ。 最後に戦況の現状にも触れたい。軍事筋によると、先述のハルキウ州方面以外でも東部の各地戦線ではロシアが攻撃場所を自ら決められるという意味で、前線での「主導権」を依然握っている。
■ロシアの兵力不足と戦車不足 しかしハルキウ方面を中心に次第にロシア軍の攻勢が鈍り始めている。ロシア軍は各地で攻撃を続けているが、2つの問題を抱えているという。それは兵力不足と戦車などの装甲車両が不足しているというものだ。 ロシア軍は、ウクライナ軍が対応に苦慮している誘導型滑空弾という新型兵器を使って空から攻撃を仕掛けてきている。しかし、その下の地域を実際の制圧地に変換するための兵力や戦車がないという。
アメリカからの軍事支援再開で、ウクライナ軍の深刻な砲弾不足も解消しつつある。ロシア軍は依然ハルキウ州方面でも攻勢を続けているが、それが大きな占領地拡大にはつながらず、「攻撃を続けるための攻撃」になり始めているという。 一方で、クリミア半島ではウクライナ軍がミサイルやドローンによってレーダー基地や黒海艦隊への攻撃を活発化させており、クリミア大橋に対する大規模な破壊攻撃の前段階とみられる作戦が目立っている。
吉田 成之 :新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長