「相続税はイヤ!」資産家しまり屋の高齢母、タンス預金4,000万円を積み上げるが…寝込むほど追い込まれた「税務調査」への恐怖
度を過ぎた倹約家の両親は、多額の資産を積み上げますが、父が病に倒れてしまいます。親類から相続税の重さを聞いた母親は必死になって「タンス預金」を試みますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
資産はあるのに…度を過ぎた倹約家の両親に、息子たちは辟易
今回の相談者は、40代会社員の伊藤さんです。60代の父親が亡くなり、相続税が不安で居ても立っても居られないと、筆者の事務所に駆けこんできました。 亡くなった伊藤さんの父親は土地持ちの二男で、100坪超の自宅と隣接する広い駐車場を所有していました。伊藤さんの父親は普通のサラリーマンとしてまじめに勤務してきましたが、非常にお金に細かく、飲み会にも参加しなければタバコも吸わず、自宅の水道光熱費にまで目を光らせるという徹底ぶりでした。 お話を聞いた筆者は、さぞかし伊藤さんの母親がつらい思いをされたのではと思ったのですが、母親はさらに輪をかけた倹約家だというのです。伊藤さんは「親に恨みを持っているわけではない」と前置きしたうえで、 「父はうんざりするほどのしまり屋で、本当にお金に細かい人でしたが、母は父を上回っています。倹約家なうえに秘密主義なのですから…」 と説明します。 父親の相続人は、母親、長男である伊藤さん、二男である弟の3人です。
「お金は貯めるほど、相続税が大変だよ?」
「そんな両親でしたから、私と弟は、自主的に公立高校、国立大学へと進学しました」 お2人とも優秀だったようで、浪人することもなく、だれもが知る有名大学を卒業されています。 伊藤さんきょうだいは大学を卒業すると、大手企業に就職して独立。その後、伊藤さんは20代後半で結婚し、家庭を築いています。30代後半の弟は、まだ独身です。 「妻の両親と交流するようになり、普通の家庭のありかたを知った気がします。結婚後に妻の両親と親しくなるほど、自分の両親との違いを思い知らされました…」 一方で、年齢を重ねた両親の資産形成への情熱は高まるばかりでした。ですが、そんななか父親が病に倒れてしまいます。両親の窮状を見かねた弟はやむなく実家に戻り、サポートすることになりました。 「父の病気が発覚すると、父は病院代がかかるからといって、さらに厳しい節約をするようになりました。いったいなにを目的にお金を貯めているのか…」 伊藤さんはため息をつきます。 ところが、家族の状況を知った親戚から、 「お金は貯めれば貯めるほど相続税が跳ね上がり、ガッポリと税金を取られてしまう。それこそ、これから先が大変だよ?」 と聞かされたことで母親は恐れおののき、今度は父親の預金をせっせと引き出し、母親の口座や、自宅の金庫に移し始めたのです。 その後、伊藤さんの父親は患っていた病気が原因で亡くなりました。いまから8カ月前のことです。 しかし、母親に相続税の不安を吹き込んだ親戚は、また別の不安の種となる話を母親に聞かせました。 「税務調査って知ってる? 税金を逃れると、大変なことになるらしいよ?」 母親はついに、あらゆる心労が重なって寝込んでしまいました。 伊藤さんは弟と2人で母親を説得し、父親の不動産の固定資産税の課税明細書や通帳類をどうにか出してもらえたのが、父親の死から半年後。それをもとに2人で相続税の計算をしてみましたが、どうしても不安が残ることから、ネット検索して筆者の事務所にたどりついたということでした。 しかし、この時点で申告期限まで2カ月しかないというきわめてシビアな状況です。筆者は提携先の税理士に事情を話し、すぐに作業に着手してもらいました。