映画監督・湯浅典子 テレビ育ちなので…作品に合う人を探すところからやりたかった 「なんで人は死ぬのか」北野武監督に心酔
大学では建築学を学んだ。「周りはみなさん優秀で、しまったと。建築で就職する自分が見えなくなったとき、北野武さんが監督した『HANA―BI』を見て、衝撃を受けました。エンドロールを見ていると、武さんに肩書きがたくさんついていて、全部やられている。この職業なら飽き性の私でもやっていけるかもしれないと」
心酔する北野監督も明治大学工学部出身の理系監督だ。
「今でも私、数字とか大好きですし、理論的、合理的なことが好きなんですが、唯一、そうじゃないところに映画の面白さを感じました。北野監督の映画で、象徴的に絵が入る感じとか、岸本加世子さんがほとんど台詞を発しないとか。もちろん理屈はあるのだとおもいますが感動的でした」
冒頭の「なんで人は死ぬのか」の答えも単純に数値には置き換えられない。それは身近な人の「死」を通じて、ショックを受け、自身が感じ取るしかない。
「一歩進んでみようと思ったとして、進めないことだってあるし、ただ進んでみようと思っただけということもある。何かすごく曖昧な言い方になりますが、へこたれている人にがんばれ、がんばれとか言いますよね。こけちゃった人に、立ち上がりなさいとも言うけど、別に『そのままでいい』って言ってあげられるやさしさを私は持ちたいなと思っています。社会もそうあってほしいし、生きていくってそういうことだなって。こけて、泣いて、そのままでも良くない?って」
死という最も深刻なテーマに向き合うからこそ、明日が見えてくる。
■湯浅典子(ゆあさ・のりこ) 映画監督。プロデューサー。1976年12月3日生まれ、47歳。岡山県出身。東京都立大学工学部建築学科卒業後、木下プロダクション(現TBSスパークル)に入社。2013年フリーとなり、テレビドラマの演出・プロデュースの一方、15年劇場公開された「宇田川町で待っててよ。」で長編映画監督デビュー。短編映画も精力的に監督し、「空っぽの渦」は国内外の映画祭で17冠受賞。AmazonPrime連続ドラマ「日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周」では、自身の企画でプロデュースとメイン監督を務めた。