映画「隣人X -疑惑の彼女-」―記者とある女性の関係を通して、人間の不安と愛を描くミステリーロマンス
パリュスあや子による第14回小説現代長編新人賞受賞作を、熊澤尚人監督が上野樹里主演、林 遣都共演で映画化した「隣人X -疑惑の彼女-」(12月1日公開)。これは人間の姿をそっくりコピーして暮らす〈惑星難民X〉と人間が共存している日本を舞台に、Xを見つけ出そうとする週刊誌記者・笹と、X疑惑のある女性・良子が織りなすミステリーロマンスである。
〈惑星難民X〉は誰か。その容疑者と記者との恋
紛争のため故郷を追われた惑星難民Xは、人間に擬態化できる能力を持ち、人々はXの存在に不安を感じている。そこで週刊誌は誰がXかを特定するため、特集記事を組むことにする。笹(林 遣都)はこのネタで名を上げようと編集長に自分を売り込み、X疑惑のかかる者の一人、良子(上野樹里)に接近していく。最初は記事のため彼女に近づいた笹だが、やがて良子に愛情を感じ、はじめは笹を警戒していた良子も彼を受け入れるようになって、二人は恋人関係になっていく。
上野樹里と林 遣都が、主人公のカップルを好演!
ポイントになるのは良子との仲が深まるほどに、笹の中に芽生える罪悪感。一方で彼は記者として成功したいという野望を持ち、介護施設にいる祖母のために金を稼ぐ必要もあって、良子と本音で向き合えない。嘘をつきながら彼女への愛との間で苦悩する笹を、林 遣都が絶妙に演じている。 対する良子は有名国立大学を卒業後、大手企業を数年で退職。コンビニと宝くじ売り場のバイトを10年も続けていて、あまり人と交流を持たない“おひとり様”の生活を送る女性である。その孤立したライフスタイルがX疑惑の要因にもなったのだが、良子自身は今の生活に不満を感じている節はない。シンプルな暮らしぶりの中に、自らの幸福を見つけようとする人物を描くということでは、ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」(12月22日公開)における、毎日決まったサイクルで生活する、公衆トイレの清掃仕事をして暮らす役所広司扮する主人公も同様である。余計なものを削ぎ落して自分の身の丈に合った生活をするという考え方は、情報過多な現代社会に対する反動として注目されているのかもしれない。その静かに生きる良子を、上野樹里が説得力を持って演じている。彼女はテレビの『のだめカンタービレ』(09~10)のようなキャラが際立つ役もいいが、最近では『監察医 朝顔』(19~21)のように、演じる人間の温かみを自然に感じさせる役も得意。7年ぶりの主演作となったこの映画では、そんな彼女の人間的な魅力がよく出ている。