イランとイスラエル「全面攻撃」はあるか、たった1つのカギ、「水面下の戦争」から局面一転、直接攻撃の衝撃
昨年10月の奇襲攻撃でハマスは短時間に数千発のロケット弾を発射するという「飽和攻撃」を行い、防空システムの能力限界を超えることでイスラエルに甚大な被害を与えられることを証明した。 イランのドローンの優位性は、安価で大量生産可能という点にあり、イスラエルは迎撃するために高価なシステムを運用しなければならない。さらに飽和攻撃が実施されれば、飛来する多数のドローンや弾道ミサイルをさばき切れないことは確実で、今回のイランの攻撃は将来的な軍事衝突を視野に、双方にとって貴重な軍事情報の蓄積が可能になった。鉄壁の守りを誇るイスラエル軍基地への攻撃に成功したことで、イランは一定の手応えを感じているだろう。
イランのドローン生産は、ウクライナ戦争をめぐってロシアに大量供給するなど重要な産業になっている。イスラエルへの攻撃に投入したことで、輸出産業として育成するためのショーケースとする思惑があったとの分析もある。 このため、イスラエルがイランに報復攻撃を仕掛けるとすれば、ドローンの生産拠点が対象になる公算が大きい。イラン本土を攻撃することになり、報復の応酬という形で事態がエスカレートしていくことになる。
ただ、バイデン政権が自制を求めているほか、ガザ戦争の最中にあり、イスラエルとしては直ちに戦線を拡大させるのは得策でないと判断するのではないか。 ■イスラエルには「助け舟」の側面も ベンヤミン・ネタニヤフ首相はガザ戦争で、ハマスの戦闘部隊が勢力を温存させている南部ラファへの攻撃をあくまで強行する構えを見せている。ガザ戦争での犠牲者拡大でイスラエル批判の声が強まる中で、イランのイスラエル攻撃はネタニヤフ政権にとって国際社会からの風当たりを和らげる「助け舟」となった面もある。
イランの攻撃により、国際社会の耳目がイスラエルとイランの対立に集まることになったほか、欧米諸国もイランのイスラエル攻撃を非難することで結束している。ガザ戦争での民間人の犠牲拡大や人質解放交渉の不調から支持率低下に苦しむネタニヤフ首相は国内的にも、国民の関心がイラン脅威論に向かうことになった。 「ミスター・セキュリティー」として安全保障対策を売りにしてきたネタニヤフ首相としては、ハマスの奇襲攻撃をめぐる不手際を挽回する好機となりそうだ。
イランの支援を受けるハマスが昨年10月の奇襲攻撃で短時間に1200人以上を殺害するなど、ハマスの脅威はイランと比べて極めて大きいと改めて主張することで、ガザ地区でのハマス掃討作戦を強化するためにイランの攻撃を政治的に利用していく可能性が高い。
池滝 和秀 :ジャーナリスト、中東料理研究家