SF漫画『宝石の国』完結ーー『花束みたいな恋をした』でも話題「生々流転」を描いた傑作物語を振り返る
漫画『宝石の国』(講談社)の第13巻が、11月21日に発売される。この発売をもって『月刊アフタヌーン』6月号での連載終了に続き、書籍でも完結。宝石や鉱物の名前を持った美しいキャラクターたちの戦いを、スタイリッシュに描いて心躍らせてくれた物語が、人類の遠い未来を描き、生命が向かう先を示す長大で深遠なSFへと進展して驚かせる。最終巻の発売を機に、『宝石の国』が持つ唯一無二の存在感を問い直す。 【画像】映画『花束みたいな恋をした』主演・有村架純の最新写真集『sou.』の中身はこちら ◼️「生々流転」という言葉を使うとしたら、『宝石の国』ほどふさわしい漫画はない 始まりとして『宝石の国』は、美しくて硬いが脆くもある宝石たちが少年とも少女とも取れそうな美しい人の姿を取り、宝石たちをとらえて月へと連れていこうとしている月人たちと戦う姿を描いて、読む人の目を引きつけた。寄宿舎を舞台に少年たちが戯れあっているような日常描写も挟まって、異能力バトルと学園ものが合わさったような面白さを感じさせた。 人類の姿が見えない星の上で、どうして宝石たちが人の姿をして戦っているのかといった設定も不思議だった。それ以上に、ダイヤモンドのように硬かったり、ボルツのように粘り強かったりと、素材となっている宝石や鉱物の特徴を持っていて、それが個性となった戦い方を見せてくれる宝石たちに目を奪われた。ほかにも多彩な宝石が美しいキャラクターとして登場して、誰が“推し”かといった興味を喚起した。 シンシャのように体から毒を出す者もいて、それゆえに他の宝石たちに戦う姿を見せられず触れあえない哀しみを背負っている悲劇性が魅力の宝石もいた。全身に開いている穴が原因で長く眠り続けていて、他の鉱物で補われることで少しだけ目を覚ますパパラチアは、儚さと聡明さを感じさせて、僅かな出番で強烈な存在感を残した。
そうした多彩な宝石たちにあって主人公のフォスフォフィライトは、誰よりも脆くちょっとした衝撃で壊れてしまうため、宝石たちを指揮している僧形の人物で、宝石たちからは先生と呼ばれている金剛から戦闘には出ず博物誌を作るように言われ、宝石たちの日々を観察することを始めた。物語は、そんなフォスの目を通す形で、宝石の国で共に過ごすような感じで進んでいく。 そのフォスの運命が、まさに生々流転といったものとなっている。まず身体。両脚が貝のような生き物の殻に換わり、両腕も金と白金の合金に付け替えられる。頭もラピスラズリのものにすげ替えられる。そうした変化を経て強くなり、戦闘に参加できるようになったフォスが、宝石たちを捕まえて月へと連れていこうとする月人との長く続いてきた戦いに、終止符を打つ存在になるのだろうか? そんな想像が浮かんだ。 違っていた。『宝石の国7』あたりでフォスは、海に暮らす軟体動物が殻を持ったような姿のアドミラビリス族から、宝石と月人、そしてアドミラビリス族がどのようにして誕生したのかを教えられる。先生と月人との間に宝石たちが教えられていない秘密があるのではないかと考えるようになり、そのことを月へと行って確かめようとする。 続く『宝石の国8』で乗り込んだ月で、フォスは驚きの真実を知り、読者も同じような驚きの展開を見せられる。その内容については、2017年10月から12月まで放送されたテレビアニメ『宝石の国』でもまだ描かれておらず、これから作品に触れる人もいるので伏せておく。ひとつ言えるのは、月人は無慈悲な襲撃者でも神がかった存在でもなかったということ。フォスは先生の正体であり月人の目的といったものを知り、自分はどうしたらよいのか迷ってある決断をする。 フォスは、宝石たちの観察者といった位置づけから、宝石たちと月人たち、そして海にいる軟体動物たちも含めた存在たちの間を取り持ち、同じ目標に向かって進むための原動力となる。そして、これも生々流転としか言いようのない運命を、長い時間をかけて示していく。 そうした物語から浮かび上がってくるのは、『宝石の国』が人類であり地球といったものの未来を、とてつもなく長いスパンで描こうとした壮大なSFだったということだ。美しい宝石たちがいて、恐ろしい月人たちがいて、海にアドミラビリス族がいる物語の舞台を想定した上で、その先に壮大な生命と宇宙の未来のビジョンを指し示す。そして、読む人を流転する運命というものの奔流の中に叩き込み、未だかつて見たこともないような場所へと連れて行く。