台湾総統選 現状維持を「アメリカとの関係と防衛の強化」によって保つのか、「中国との安定的な関係」によって保つのか
前回の教訓から総統選に反発して脅すようなことはしない中国
飯田)各新聞が特集記事を組んでいますが、今回は以前のように、中国からの目立った工作や脅しのようなものはないそうです。 神保)中国が総統選に反発して演習したり、脅したりすると、むしろ中国が最も望まない民進党の候補者の追い風をつくってしまうかも知れない。それを学んだのだと思います。今年(2023年)に入ってから、全人代でもそうですし、習近平氏の演説もそうですが、台湾に関する原則論は言うものの、必要以上に脅してはいません。北風と太陽で言うならば、生ぬるい北風です。 飯田)太陽とまではいかないのですね。 神保)台湾のなかで「もしかすると中国は大丈夫なのではないか。両岸関係の対話も可能なのではないか」と匂わせ、選挙に影響を与えようとしているのだと思います。どこまで成功しているかは未知数ですが、少なくとも「頼清徳さんが台湾の人々の支持を一方的に獲得する」という状況ではない。それが大きなポイントだと思います。
現状維持を、「アメリカとの関係と防衛の強化」によって保つのか、「中国との安定的な関係」によって保つのか
飯田)蔡英文氏の2期目が決まった前回の総統選では、目の前で香港の民主化デモが潰されていく過程があった。当時とは違うわけですね。 神保)国民党の総統だった馬英九さんがいたときは、台湾に言わせれば、いわゆる「1992年コンセンサス」があったのです。「一つの中国」という原則はあるけれど、そこには2つの解釈、つまり台湾独自の解釈がある。しかし、「一つの中国」を基盤に両岸関係を進めようという流れがあり、両岸の対話が始まったわけです。 飯田)そのときは。 神保)その先にある姿が中国の言う「一国二制度」だとすると、「香港で全然うまくいっていない」というところが、台湾の失望を招いたわけです。当然、国民党にとってはマイナスだし、民進党にとっては「仕方がない。香港のようにはなりたくない」という部分があった。ただ、ここへ来て「そこまでいかなくても、より平和的な両岸の対話があってもいいのではないか」と思う層も台湾にいることがわかった。台湾の人々が求める現状維持に関して、「アメリカとの関係と防衛の強化によって保つのか、それとも中国との安定的な関係によって保つのか」という考え方が台湾のなかにあるかも知れない。それが今回の選挙で明らかになると思います。 飯田)それによって、情勢そのものがどう変わっていくのか。加えてアメリカ大統領選も絡んできます。 神保)まず頼清徳さんが勝利した場合、やはり中国は台湾への厳しい姿勢を確実なものにすると思います。両岸関係の緊張は避けられない。だからと言って、侯友宜さんが勝つことで直ちに平和的な発展があるとも言い難い。それほど台湾社会はこのアイデンティティを深めていると思います。