ミルクボーイ駒場孝の「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第13回「侍タイムスリッパー」
これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・ミルクボーイ駒場孝による映画感想連載。文脈をうまく読み取れず、鑑賞後にネット上のレビューを読んでも「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」となりがちな彼が名作を気楽に楽しんだ、素直な感想をお届けする。 【画像】「侍タイムスリッパー」のシーン写真はこちらから 第13回で観てもらったのは、“第2の「カメラを止めるな!」”の呼び声も高い「侍タイムスリッパー」。上映館が1館のみだった低予算の自主映画が全国に広がる現象を見て、駒場が思い起こしたこととは。またタイムスリップものが苦手な駒場にもわかりやすかったというシンプルな面白さについて、映画を漫才に例えながら感想を述べている。 文 / 駒場孝(コラム)、松本真一(作品紹介、「編集部から一言」) ■ この現象、「カメラを止めるな!」?マリトッツォ?あとは? こんにちは、ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは「侍タイムスリッパー」です。2024年8月に、東京のたった1館の映画館で上映され、それが面白いとSNSなどで話題となりリピーターの方も多く訪れ1カ月後には大手の映画館でも上映されるようになり、あっという間に全国区の大人気作になったという映画。この駆け上がっていくストーリー、めちゃくちゃ気持ちいいですね。もちろん、「上映前から話題で監督もすごいし役者さんもすごい、そして公開されたらやっぱり面白い!」みたいな王道パターンもすごいです。期待値が上がりまくっているところをちゃんと超えていく強さは当然かっこいいのです。ただ「侍タイムスリッパー」のように、無名の状態から世の中にかましていくさまはまた違ったかっこよさがありますし痛快です。 誰にも知られてない、事前情報も何もない、なんなら期待もされてない、無名状態から世間を巻き込んでいく、なんかそんなことって過去にもありましたよね~? あ、「カメラを止めるな!」ですね、これもありました。「侍タイムスリッパー」と同じように低予算で製作されたインディーズ映画にもかかわらず話題を呼びまくり大ヒット。ありましたよね~。あとジャンルは違いますがマリトッツォとかも日本では無名状態から巻き込んでいきましたよね~。一時期なんでもマリトッツォマリトッツォ言ってましたもんね~。あとは~、あとはそうですね~……無名状態から巻き込んでいったと言えば~……「『M-1グランプリ2019』のミルクボーイもそうでしたよね!!」(少し右下を向いて早口でさも自分が言ってないような感じで) すみません、誰かが言ってくれるのを待ってましたがコラムなので誰も言ってくれないので、自分で言ってしまいました。もう満足です。 作品を観た感想としては、とてもわかりやすくて面白かったです。「タイムスリッパー」というのでどれくらいの頻度でタイムスリップするのか、過去とか未来とかどれくらい行ったり来たりするのか、それによってややこしくならないか、などが不安だったのですが、そこもまったく難しいことはなかったですし、自主制作で予算が限られていたからとか理由はあるのかもしれないですが、余計なことがなく澄み切ったわかりやすさが魅力な気がしました。そして、話だけでなく演技もわかりやすい。怒ってるときは怒ってるし照れてるときは照れてる。何かを含ませたような表情や意味深なセリフとかはおそらくほとんどなく、それぞれの気持ちがちゃんと理解できる。「ギクッ」みたいな演技、映画でなかなか見ないですがそんなところがあったり、場面転換のときはわかりやすくアニメのように左から右にスワイプして変わるところがあったり。全編通して深く考えず純粋に観ることができたので内容もスムーズに入ってきました。 ■ 1度でいいので自分が第一発見者になりたい こんなにわかりやすい真正面の作品で、ここまで面白く飽きずに観られるというのは、結局ストーリーがしっかり面白いんだと思いました。漫才でも、ボケはそこまで強くなくてもそれをいろんな技術で補強して強く見せたりすることもありますし、それももちろんテクニックの1つですが、そんなことなしでただただ強いボケをまっすぐ繰り出すほうが最終的な破壊力を生むこともあると思うんです。その感覚に近いのかなと思いました。最新技術を使ってすごい画を撮ったりありえない空間を作り出したり、また、至るところに伏線伏線といろいろ張り巡らせて、いい人やと思っていた人が悪い人でとか、ちらっと映った何かが実は後半意味を持っていて最後に全部つながる、もしくは作中でははっきりつながらないけど皆さんどう思います?みたいな感じの作品ももちろん見応えはあるし面白いと思い でもそんな作品が多い今だからこそ、逆に「侍タイムスリッパー」のように、派手なことはしていないけど僕のような映画初心者でもわかる1つの芯があるシンプルな話が、ここまで話題になるような破壊力を持ったのではないかと思いました。やはりまず本筋を大事にするべきだと改めて感じ、まさに今の映画界にタイムスリップしてきて一石を投じる、ならぬ、一刀を振りかぶる(うまいこと言いたいがために絶対ない言い方をあるように言った)、そんな映画だなと思いました。 そして今回の「そんなこと言うてた?」ですが、本当にストーリーがわかりやすかったので最後の最後まで「?」になることはあまりなかったので言うことがないのですが、まあ強いて言わせてもらうと、主人公の役者さん、吉本の後輩・ななまがりの森下にこんなに似てるって言ってた? ですかね。とにかく似ていました。ななまがりとは大学の落研からの仲なのでよく知っているのですが、今の森下ではなく、2010年くらいの、今より髪の毛が長く痩せている頃の森下にそっくりでした。ずーっとうっすら「森下やなー」と思って観ていました。これから観る方はぜひ昔の森下を検索して、その画像を少し頭の片隅に置いて観てみてください。全然違ったら役者さんのファンの方々にはすみません。 今回の「侍タイムスリッパー」からは、メジャーな映画だけでなく、インディーズの映画からもこういった名作が生まれるんだということを学びました。一度でいいのでまず自分が「これ面白い」と言い出したものが世に広がるという、第一発見者になりたいものです。そのためにこれからも、いろんな作品を楽しんでいこうと思います! ■ 編集部から一言 無名なところから全国で爆発する、確かに「侍タイムスリッパー」もミルクボーイもそうですね! 恥ずかしながら原稿が届くまで、この共通点には気付いておりませんでした。 ただミルクボーイは「全国ネットで漫才を披露したのはM-1の決勝が初めてだった」という逸話こそありますが、2010年ぐらいから関西ではテレビ出演も何回もあり、 お笑いナタリーにも何度も名前が出ていたため、「無名」と言い切るとさすがに失礼かも……というフォローもさせてください。昔の森下さんについては各自検索! ■ 「侍タイムスリッパー」(2024年製作) 幕末の夜に長州藩士と刃を交えた会津藩士・高坂新左衛門が、落雷による失神から目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。彼は磨き上げた剣の腕を頼りに、時代劇の「斬られ役」として生きていくことを決める。低予算の自主制作映画でありながら、脚本の面白さを理由に東映京都撮影所が撮影に協力している。2024年8月17日に東京の池袋シネマ・ロサ1館で封切られたのち、口コミで話題となり、9月には全国50館以上の拡大上映が決定。10月現在は全国309館での上映も決まっている。山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうのらが出演し、監督は本作が長編3本目となる安田淳一。安田は脚本・撮影・編集なども担った。 ■ 駒場孝(コマバタカシ) 1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われる。 (c)2024未来映画社