【F1分析】今年のモナコGPはまさに頭脳戦。角田裕毅とRBの、後方の”隙間”をコントロールする戦術を検証する
■アルボンとガスリーの差をコントロールしていた?
こちらのグラフは、アルボンを基準とした、レース中の差をの推移をグラフ化したものである。中心の紫の線がアルボン。この紫から上がアルボンの前、下がアルボンの後ろを走っているマシンを示している。 グラフの赤丸で示した部分を見ると、角田(青)の線が上下に浮き沈みしているのがよく分かる。そして、ピンク色のガスリーも、同じように浮き沈みしている。これは角田がペースをコントロールし、アルボンとガスリーの差をコントロールしている証拠だ。 モナコGPでは、ピットストップ時のロスタイムが19~22秒程度、セーフティカー中であれば12~14秒程度と見積もられていた。つまり、アルボンとガスリーの差が開きすぎてしまうと、アルボンにポジションを落とすことなくピットストップするチャンスを献上してしまうことになり、自身の立場を危うくしてしまう。そのため角田は、アルボンとガスリーの差が12~13秒を超えないように、アルボンを押さえ込むことでコントロールしていたわけだ。 そのため、ペースを上げてガスリーがついてこられないようならペースを下げ、ガスリーがある程度近づいたところでまたペースを上げる……そういうことをレース中何度も繰り返していたわけだ。単純に数えただけでも、4~5回はそういうシーンが見て取れる。 ただ速く走ればいいというわけではない。速く走りたい気持ちをグッと堪え、普段よりもかなり遅く走って、しかも抜かれないようにする……これは並大抵のことではないだろう。 昨年のカタールGPでは、タイヤトラブルが発生したことが遠因となってタイヤの使用可能周回数の上限が設けられ、常に全力の走行を強いられることになった。これも、F1ドライバーの凄さを示した一例といえよう。しかし今回のように頭脳的な走りが見られるというのも、また別の意味でF1ドライバーの真髄を見せられた一戦だったように思う。 ただひとつ欲を言えば、角田の最後の1分14秒台のペースを見ると、全力で走ったらメルセデスにどこまで迫れていたのかというところも、実に興味深い。確かに今回の状況では、無理をして前を追い、タイヤを痛めてしまうというリスクを冒すよりも、確実に8位を取りに行くという戦法は正しかっただろう。それでも、見てみたかった。 なおもう1台、アストンマーティンのフェルナンド・アロンソも、今回頭脳的な走りを成功させたひとりだ。アロンソはチームメイトのランス・ストロールがガスリーを抜けないと見るや、後続を抑えに抑えた。そしてストロールとの間に20秒の差を設け、ストロールが順位を落とさずにタイヤ交換できるチャンスを創出した(グラフの青丸の部分)。そしてストロールがタイヤ交換を終え、アロンソの前でコースに復帰したのを確認するとすぐに、アロンソもペースアップ(グラフの緑丸の部分)。ストロールと共に前を追った。 ただこの作戦は、結果的に成功しなかった。それはピットストップ後にストロールがウォールにヒットし、タイヤを壊してしまったからだ。このアクシデントがなければストロールはすぐにガスリーの真後ろに追いついていたはずで、そこでもバトルが生まれていたかもしれない。
田中健一