落語家・立川吉笑、初のソロCD発売「誰かの人生を変える1枚になればうれしい」
誰もやったことがないことを常に!“オンライン披露目”で、会場外の客を取り込む
落語立川流の二ツ目・立川吉笑が5日、都内で、初のソロCD「立川吉笑 落語傑作選 2010-2024」(2枚組、来福レーベル)の発売記念会見を行った。来年6月1日に真打ちに昇進するが、同日開催する「立川吉笑真打昇進披露興行」の中入り後(後半部分)を、YouTubeで無料配信するという前代未聞の“オンライン披露目”を試みる。古典芸能の世界で常に仕掛け続けて来た落語家の現在地を聞いた。(取材・文=渡邉寧久) 【写真】初のソロCD発売する立川吉笑の別カット 「今以上に自分のことを知ってもらうタイミング。名刺代わりになるものがあった方がいいな」という思いから、「単独の立川吉笑CDを出したい」と吉笑は考えた。これまで創作話芸ユニット「ソーゾーシー」名義でのリリースはあるが、ソロでは初となる。 お笑いの周辺で仕事を模索していた2008年、「初めて落語をちゃんと聞きました。(立川)志の輔師匠のCDを買って聞いたら、こんな面白いんだ! と衝撃を受けた」と原点を振り返り「誰かにとって、人生を変える1枚になればうれしいな、と考えたりします」とCDに込めた思いを伝えた。 古典落語も新作落語もしゃべるが、特に創作落語への評価は高く、22年には自作の「ぷるぷる」で若手の登竜門でもあるNHK新人落語大賞を満票(50点)で獲得したほど。現在までこしらえた新作は約120作。「その中でも1軍があって、常備している武器が30席ぐらいあって、スタメンが10席から15席ぐらいですね」と内訳を明かし、前記の「ぷるぷる」の他「ぞおん」「くじ悲喜」「猫の恩返しすぎ」など6席を厳選した。 「(古典落語の世界観に現代的笑いを取り入れた)擬古典から新作、古典の改作もありますし、言葉も江戸弁のもの関西弁のものも入っていて、(自分の芸の)幅を詰められたかなと思っています」と、自身の今が凝縮された2枚に及第点を付ける。 11年11月6日に、ひと月のインターバル期間を経て師匠立川談笑に正式に入門し(CDリリース日は入門記念日)、通常は3~5年かかる前座修業をわずか1年5か月で突破し、二ツ目に昇進した逸材。飛び級のように昇進したが、あべこべに二ツ目の修行期間は約13年とたっぷり。自宅近くの道端で足を骨折し、全治2か月の重傷を負ったことから、浴びるように飲んでいた酒を禁酒し、6年余が過ぎた。「その分、時間ができたので、夜中に創作したりしましたね」と作り手としての自身と向かい合うことにも成功した。 「意識的に人がやらないこと。例えば学者の方とイベントをやったり、講演を聞いて即興で作ったネタを披露するとか、50週連続独演会とか、両国国技館の音楽イベントで開口一番で落語をやったり、Bリーグでもやりました」と、これまでの試みを振り返るが、「最近は、前代未聞のことはやっていなかった。時間も確保できなくて」と現状を吐露。「真打ちになったら責任は自分で取れるんで、ここ数年やってこなかったんですが、あらためて落語のすごさを伝えていきたい」と原点回帰を誓った。 来年6月8日、真打ち昇進パーティーを開くが、その席で、長年の禁酒生活に一旦ピリオドを打つという。「全国のお客様と一周飲んで、その後はほどほどに飲めればいいですけどね」。そう語る口調は、落語について語るそれとは正反対で、自信たっぷりという感じではなかった。
渡邉寧久