「ある行旅死亡人の物語」共同通信大阪社会部武田惇志・伊藤亜衣著…謎多き女性の半生、身近な地名にドキドキ
司書のコレ絶対読んで!広島県三原市立中央図書館・井上丹美(あけみ)さん
「行旅(こうりょ)死亡人」という言葉をご存じでしょうか。病気や行き倒れ、自殺などで亡くなり、身元がわからず、引き取り手もいない人を指す法律用語です。 【画像】井上丹美さん 読書家の夫から「読み応えがあった」と薦められ、手に取りました。図書館の業務に家事と忙しい日々で、読書をする余裕はなかなか持てなかったのですが、ノンフィクションだからこその迫力に加え、著者の筆力も相まって、1日で読み終えてしまいました。
描かれているのは、2020年4月に兵庫県尼崎市のアパートで遺体で発見された高齢女性のお話です。本籍、氏名も不明、現金3400万円を所持、右手の指はすべて欠損――と、謎の多い人物です。 官報の「行旅死亡人」の情報を知ってこの女性に関心を持った共同通信の記者2人が取材を開始。氏名や親族を突き止めるなど、徐々にその人生に迫っていきます。主な舞台の一つでもある広島県での取材も詳細に描かれており、身近な地名が登場してドキドキしました。表に出ていない事実を掘り起こす、記者の仕事の厳しさとやりがいも伝わってきます。
出版されたのは2022年の秋。当図書館の貸し出しランキングで数か月間、上位に食い込むなど人気の高い作品です。 8月、当図書館が初開催したビブリオバトルで、高校生らにまじって司書代表で出場し、この本を取り上げました。約40人の聴衆は興味深そうに私の話を聞いてくれました。投票の結果、「読みたい本」部門の1位に輝きました。 死という事実の上に、かつて確かに存在した命があった。誰にとっても一度きりの人生。そのかけがえのなさにも触れることができる一冊です。(聞き手・西堂路綾子)
【図書館メモ】
▽所在地 広島県三原市城町1の3の1 ▽蔵書数 24万7000冊 ▽特色・取り組み 2020年7月、JR三原駅前に移転オープン。県立三原東高校などと連携し、生徒による小学校への読み語り出前講座などを行っている。 *街や学校の図書館で働く司書の皆さんに、オススメ本を紹介してもらいます。