イランのライシ大統領が墜落死、どうなる最高指導者と大統領の後継選び
(宇山 卓栄:著作家) ■ 焦点は最高指導者ハメネイ師の後継者が誰になるか イラン北西部の東アゼルバイジャン州で19日、ヘリコプターが墜落し、ライシ大統領やアブドラヒアン外相ら搭乗者全員が死亡しました。ライシ大統領に加え、アブドラヒアン外相がいなくなったことはイランの体制にとっては少なからず影響があります。 【写真】現在85歳の最高指導者ハメネイ師の後継者は誰になるのか アブドラヒアン外相はロシアとの関係を深め、イランのBRICS加盟を実現させた実務の取り仕切り役でした。また、中国との関係を深め、中国の仲介により、2023年のイランとサウジアラビア外交関係正常化を果たしました。活発な外交関係の構築に大きな功績があったのです。 そして、レバノンのヒズボラとの関係を、イスラム革命防衛隊との連携により強化しました。以前、ヒズボラなどのイラン別動勢力である「抵抗戦線」の支援連携を、革命防衛隊が単独で前のめりになって推進していましたが、アブドラヒアン外相が革命防衛隊とともに、支援連携を推進し、イランの政権そのものが「抵抗戦線」の支援連携に積極関与するようになったのです。同外相は革命防衛隊と政権をつなぐ連絡役の要でした。 墜落事故を受け、次期大統領選挙は6月28日に行うと発表されています。注目されるのは、次期大統領に誰がなるかということ以上に、最高指導者のハメネイ師の後継者が誰になるのかということです。 これまで、次期最高指導者はハメネイ師直系の腹心ライシ大統領であると目されてきましたが、死去によって後継体制が見えなくなっているのです。
■ 権力の源泉は「イスラム革命防衛隊」に イランでは、故ホメイニ師やハメネイ師のような最高指導者が国民に選挙で選ばれた大統領よりも、強大な権限を持ち、国家の最終意思決定者として君臨します。大統領は首相の役割を担い、議会や行政を動かします。 最高指導者の権力の源泉として、イスラム革命防衛隊の存在があります。革命防衛隊は国軍とは別の最高指導者直属の軍であり諜報機関です。1979年、イラン革命で政権を握ったホメイニ師が国軍とは別の軍組織として創設したのがはじまりです。国軍は旧王政への忠誠心、シャー(イラン王)への忠誠心がいまだ残っていると疑われ、それとは別の組織がつくられたのです。 第2代最高指導者のハメネイ師も、イスラム革命防衛隊に子飼いの軍人らを送り込んでいます。2020年1月に殺害された革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のスレイマニ司令官もその一人です。 イランでは国民の約90%がイスラム教シーア派です。預言者ムハンマドの娘ファーティマとその婿のアリーの子孫だけを正統なムハンマドの後継者と認める人々は「シーア・アリー」(アリーの信奉者)、略して「シーア派」と呼ばれるようになります。 シーア派はアリーを初代のイマーム(「指導者」の意)とし、アリーとファーティマの子孫だけをイマームと認めます。イマームは神と人間を結びつける指導者であり、預言者ムハンマドの血統によって決まります。 イラン人が主に正統と認めるイマームは初代アリーから12代ムハンマド・ムンタザルまでの系譜です。この系譜に、イマームが12人いたため、「十二イマーム派」と呼ばれます。これ以降、直系の継承者が絶えましたが、イマームは死に絶えたのではなく、人々の前から姿を消し、隠れたのだと考えられています。この「隠れ(幽隠)」のことを「ガイバ」と言います。「ガイバ」の状態にあるイマームは最後の審判の日に、この世に再臨すると信じられています。