【漫画】クマ撃ちは数少ない現代における冒険ルポルタージュ。「命をいただく、感謝する」という当たり前の前提で動物と対峙するハンターのリアル
『クマ撃ちの女』#3
今年は日本全国でクマによる被害が相次いでいる。ときに残酷ともいえる瞬間を迎える、「人間」と「野生のクマ」との対峙。命懸けで山に入るハンターたちのリアルとは…。Webマンガサイト「くらげバンチ」で連載中の『クマ撃ちの女』(新潮社)を描く漫画家・安島薮太さんに話を聞いた。(全4回の3回目) 【漫画を読む】「同行者がたとえ死んでもクマが撃ちたい」クマ撃ち葛藤を描いた『クマ撃ちの女』
クマだけじゃない、人間とキツネの真剣勝負
――山の怖さが描かれはじめる5話ですが、先生は取材時に危険な場面に出会いましたか? クマに遭遇するとか、そういう危険な目にはあってないです。強いていうなら、今年の2月にいった取材でゾンメルスキー(スキー板の裏にアザラシの毛皮を貼ったもの。主に雪の上を歩くことを目的として作られている)を履いたんですが、全然制御できなくて怖かった(笑)。10巻で中野がゾンメルスキーでスイスイ進んでいく描写をしちゃったんですけど、あれは間違いでしたね。中野だったらもっとずっこけてる(笑)。 ――6話ではいわゆる猟師グルメも登場しますが、先生も実際に召し上がられたのでしょうか。 部位も調理法も、いろいろ食べさせてもらいました。ちなみに、料理自体の描写はもちろん、調理の描写にも結構こだわりがあります。6話以降も調理シーンはたびたびあって、ときには残酷に見える描写もあるかもしれませんが、取材に基づいたリアルさを表現できたかなと。個人的に満足しているシーンが多いです。 ――取材では、動物を撃って、解体するような現場もご覧になったんですよね? そうですね。はじめて見たのは鹿だったかな。撃った鹿を木に吊るして、腹を裂くとパンパンに膨らんだ内蔵がドバッと出てくるんです。動物が死んでしまった…と正直おののいている自分がいましたし、抵抗感もありました。裂いた瞬間、体の中から生暖かい空気がムワッと出てくる感覚は今でも忘れられません。でも、皮を剥いだ瞬間に食べ物に見えたんですよ。それもとても美味そうな。人によって感じ方は違うと思いますけど。 ――まさに現場を見たからこその、リアリティを感じます。 可哀想だと思う気持ちはありますし、そう思う人がいることもわかります。でもそれって真実の1つの側面でしかありません。だって、たとえば農家さんからしたら手塩にかけて作ってきた農作物を荒らすにっくき敵ですよ。 ――簡単に善悪を決めつけられる話ではないですよね。 うん。実はいいハンターさんって動物好きが多いんです。最初に、命をいただく、感謝するのが当たり前になっているという話をしましたが、それは動物が好きという前提があるからだと思います。外から見ると、動物を獲物としてしか見ていなかったり、下手すると物のように扱っていると見えてしまうこともあるかもしれませんが、そんなことはないと思います。取材を通してそう感じました。 ――ほかに、印象的だった取材時のエピソードがあれば教えてください。 4巻で描いた「獲物を横取りしようとするキツネ」は、実際に目にしたハプニングです。撃った鹿を回収しようと動き出したら、同じく鹿に向かって歩いてくるキツネが見えて。先に舐められたりでもしたらエキノコックスが危なくて食用にできなくなっちゃうから、ハンターさんがキツネに「コラーッ!」って言いながら猛突進していって(笑)。自然の中だからこそ見れた、人間とキツネの真剣勝負はすごく印象的でした。その瞬間、絶対漫画にするぞと決めましたね。 取材・文/鳥山徳斗
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