右傾化するヨーロッパと左傾化するイギリス
■イギリス以外の国にもEU嫌悪はある
ブレグジットは特異な出来事だったかもしれないが、EUやその機関(つまりはブリュッセル)の理念に対する嫌悪がイギリス特有のものだという考えは間違っている。ヨーロッパ中の多くの人たちも、国家から主権を奪う超国家組織という考えを嫌っており、EUの官僚主義や予算の無駄を嫌悪している。EUで権力を握る連中は、自分たちとはかけ離れた利己的なエリートだと考えている。 もちろんEU加盟国であることには経済をはじめ多くのメリットがあることも確かで、各国はそれぞれのメリットを享受している。例えばルーマニアなど貧しい国は拠出額を上回る予算の配分を受けているし、ベルギーのような小国は世界の舞台で大役を担うことができる。 ドイツは「よきグローバル市民」として忌まわしい歴史を償い、バルト諸国はかつての支配者ロシアから距離を置き、「西側」への忠誠を示すことができる。ポルトガルやキプロスなど自国政府への不信感が強い国にとっては、ブリュッセルは便利な「抑止力」となっている。 つまり、ヨーロッパの多くの国は、EUを進化的で素晴らしい形態として歓迎しているわけではなく、その欠点も含めて「受け入れている」にすぎないのだ。 EUに対する熱意を示す指標は投票率に表れている。今回の欧州議会選の投票率は51%(11カ国が同時に自国の地方選挙などを行ったおかげで押し上げられた)。クロアチアでは辛うじて20%に届く程度だったし、ブルガリアでは3人に1人をやや上回る人が投票した。オランダでは2023年に行われた総選挙の投票率が77.75%だったのに対し、欧州議会選は46.2%、スウェーデンでは2022年の総選挙が84.2%で、今回が50.4%だった。 ■移民問題に物申す人は「人種差別主義」? この20年間で移民流入がヨーロッパを大きく変えたのは明らかだ。この間、リベラルで「グローバル志向」の人たちは、移民反対派は単純に人種差別主義で狭量だと主張して、彼らを黙らせようとしてきた。 しかし近年では、移民に対して最も開放的だったスウェーデンとオランダにも変化が見られ、移民規制の強化を掲げる政党が躍進している。これは増え続ける大量の移民を受け入れてきた社会が、その経験から移民の減少を望むようになっていることを示唆している。 主要な政党がこの事実を無視することによって、移民流入はいかなる形態であれ害悪で危険であり、それゆえ誰であれ移民は脅威だ、と誤った考え方を吹聴するような、より過激な勢力が世間の機運を悪用する余地が生まれてしまう。
コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)