華麗な装飾、実用を超越…〈正倉院展宝物考察〉
玳瑁八角杖(たいまいはっかくのつえ) (長さ135.5センチ、横木長34.5センチ)
今年の正倉院展で一際(ひときわ)目を引く宝物の一つに、「玳瑁八角杖」がある。その名称のとおり、「杖」の宝物だ。
長い縦木と、少し弓なりに反った横木を「T」字に組んで作られており、その形自体は、今日のステッキを見慣れた目にも、さほど違和感はない。ただ、その長さ135センチ。現代人の身長でも、地面をついて歩くには少々長過ぎる。また、一見してわかるように、きらびやかな装飾をこらしたゴージャスな杖だ。
この装飾は「玳瑁貼(たいまいば)り」とよばれ、 斑(まだら)模様が入ったウミガメの甲羅を杖の表面に貼ったものだ。金や緑の地色を施した上から半透明の甲羅を貼ることで、独特の美しさを醸し出している。要所には象牙もはめ込まれ、杖の造形にアクセントを加えている。
そのデザインの秀逸さには目を見張るばかりだ。実用を超越した造形が、この杖の最大の魅力を生んでいる。
では、「玳瑁八角杖」はどのように使われたのか。このことを考えるヒントが、「日本書紀」や「続日本紀」に見える。
例えば天武天皇5年(676年)、 高市皇子(たけちのみこ)らが、その功績に対して天皇から杖などを授かった(日本書紀)。また、天平13年(741年)には、巨勢朝臣奈●麻呂(こせのあそんなでまろ)という人が、やはり杖を下賜されている。とくに奈●麻呂の例は、金や象牙で飾った華麗な杖が授けられている(続日本紀)。
「玳瑁八角杖」も、こうした臣下の功績をたたえる下賜品だったのではないだろうか。杖が権威や超人的な力のシンボルになることは、洋の東西を問わず、古来見られることだ。 (奈良国立博物館主任研究員 三本周作) ●は氏の下に一