元気に長生きしたいなら「腹八分目」では多すぎる…医師が「お腹が空いてもすぐ食べてはいけない」と説く理由
脳を働かせる食生活とはどのようなものか。精神科医の保坂隆さんは「脳のことを考えると、毎回毎回満腹になるまで食べるのはあまり好ましくはない。いつまでもボケないためには、腹八分程度で抑えておいたほうがいいが、アンチエイジングという視点からは腹六分目がいい。若返り遺伝子をうまく働かせるためのポイントの1つは、お腹がすいたからといって、すぐに食事はせずに、30分~1時間の空腹時間を保ってから食事をすることだ」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。 ■朝食をとらないと起こる生産性低下の種類 厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(平成26年)によると、全国で11.6%の人が朝食を食べないとか。この数字だけ見ると、たいした数には見えないかもしれませんが、日本の人口の1割強、人数にするとなんと1700万人にも及びます。 そのなかで最も多いのが20代で29.5%、次いで30代で23.5%となっています。働き盛りでもあるこの世代は、前夜遅くまで働いて、食を犠牲にしても寝ることを優先しているのかもしれません。 高齢者になると、さすがにその数は減ってきますが、それでも60代でも7.9%とそれほど少ないわけではありません。目立つのがひとり暮らしの人たちで14.5%に及んでいます。 ここからは、長年の仕事から解放され、しかも文句を言う人もいないので、寝たいときに好きなだけ寝る姿が浮き彫りになります。 では朝食を抜くと、どんなことが起こるのでしょうか。 朝食をとることを推奨している農林水産省の「めざましごはん」では、 ・脳のエネルギーが不足して集中力の低下などが発生しがち。 ・昼頃にはお腹がすきすぎて、つい、ドカ食いしがち。 などを挙げています。
■脳がフル回転するのは、食事をとってから2時間以上 実際、朝食をとらないと、脳の働きは驚くほど悪くなります。血中ブドウ糖濃度と体温が低いままだからです。 要するに朝食をとらない限りは、起き抜けのボーッとした状態のままなのです。脳を活性化させるには、糖分と良質のタンパク質を摂取する必要があります。 しかも、脳がフル回転するのは、食事をとってから2時間以上経過してからです。 「べつに仕事に出るわけではないのだから、朝っぱらから頭が働かなくてもかまわないさ」 そう思っている高齢者の方もいるのではないでしょうか。 しかし、午前中に投資詐欺の電話がかかってくることもあり得ます。知らないうちに銀行のカードの暗証番号を教えていた、といった面倒が起こってしまうかもしれないのです。 「早起きは三文の得」という諺は、朝食をとってこそ、その教訓が生きてくるのかもしれません。 ■「腹八分目の空腹感」こそ脳へのごちそう 脳のことを考えると、毎回毎回満腹になるまで食べるのはあまり好ましくはないようです。 米国イェール大学のホーバース博士は、それを実験で証明しました。 お腹がすくと、食べ物がほしくなります。この行動を促しているのがグレリンというホルモンです。胃から分泌されたグレリンは、下垂体と視床下部に働きかけ、食欲を増進させます。 ホーバース博士は、このグレリンというホルモンを生成できないマウスを作り出し、脳の働きを調べました。すると、記憶力に関係する海馬のシナプス数が通常のマウスよりも25%も低いとわかったそうです。 しかも、この状態のマウスにグレリンを注射したところ、シナプス数が急激に増加したというのです。 グレリンが作り出せないということは、空腹を感じないわけで、つねに満腹状態と同じになります。 実際、私たち人間の血中グレリン濃度を調べたところ、太っている人よりも、やせている人のほうが高いことがわかっています。 もちろん、ホーバース博士の得た実験結果をそのまま人間に当てはめるわけにはいきませんが、つねに満腹状態でいたり、肥満体型になると、海馬の働きが悪くなる可能性があるといえるのではないでしょうか。 江戸時代には何度となく全国各地で大飢饉が起きました。じつは私たち日本人が十分な食糧を得られるようになったのは、つい最近のことです。つまり、空腹のほうがふつうの状態だったわけです。 いつまでもボケないためには、腹八分程度で抑えておいたほうがよさそうです。